[トラックの荷台から]
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荷物が天井近くまで積み上げられてる。おかしいですよね。
先輩の悪戯だったと思っていたのに、これじゃたとえ荷台内に入っても内側から
キャビン裏の壁を叩くなんて真似は出来っこない。外から叩く事も構造上不可能なんです。
すーっと汗が引いていくのがわかりました。正直わけがわかりませんでした。
それでも仕事ですから荷物を全部降ろして、取引先のスタッフの方にもう一度お詫びして
帰ろうとしたんです。そしたら呼びとめられまして内心(まだ文句あるのかよ)とキレそうに
なったんです。でも違いました。
スタッフの方「あの、荷台の中にお連れの方乗せたままでいいんですか…?」
そうきたかっ!って思いましたよ…。
オレ「いいんです!」
確認なんかしたくありませんでした。てか出来ませんでした。
ラジオをガンガンにかけて出来るだけ何も考えないように帰りましたよ。
会社についたけど休みの日だし誰もいっこない。
タイムカードを押して速攻帰ろうと思って事務所に行ったんです。
そしたら誰もいないと思ってた事務所に先輩がいたんです。
あの時ほど先輩の存在が嬉しかった事はありません。
でも、変なんですよ。先輩朝みた時と同じ格好でソファーで寝てるんです。
すぐに気づきました。先輩の肌の色が生きている人間のそれじゃないってことに…。
そのあと一応救急車と警察を呼んで色々事情聴取みたいなことをして、結局家に帰ったのは
翌日の3時をまわってました。
翌日、翌々日と休暇を貰って翌翌々日ですか、出社したんです。
そこで初めて知ったんですが、先輩自殺だったらしいんです。
司法解剖の結果、体内からアルコールと眠剤だったか安定剤が大量に検出されたそうです。
死亡推定時刻はオレが先輩を見た(出発前の朝)3時間前後あとでした。
ということはあの時先輩はまだ生きていたことになるんです。後悔の念で涙が出ました。
あの時もしオレが先輩の異変に気づいていればもしかしたら…ってやつです。
でも、思ったんですよ。だったらあの壁を叩く音はなんだったんだろうって…。
さらに詳しく聞いた話だと先輩がアルコールと薬を摂取したのはオレが積み込みをしていた
時間だったって聞いたんです。あの音は先輩の悪戯だった可能性は低いってコトになるんです。
大体これから自殺をする人間がそんなお茶目な事をするなんて考え難いし。
そういえば最後の取引先でスタッフの方が変なことを言っていたのを思い出しました。
あの人にどんな人が荷台に乗っていたかを聞けば何かわかるかもしれない。
次に配送に行った時にさりげなく聞いてみよう。そう思いました。
結局それは実行出来なかったんですが。
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