[部屋の音]
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Aさんの部屋は、2階建てアパートの2階の一室。その押入れの上の段、その天井はベニヤの合板を
釘で打ちつけたもので、普通は取れるようになっていない。
その上は、誰も立ち入ることのない屋根裏だ。
押入れをよく調べると、その天井のベニヤの一端が、釘が抜かれてポッコリと外れるようになっていた。
普段はうまいことにかっちりとはめ込んで、取れないようにしていたらしかった。
意味深なその板を外しても、頭を入れることすら出来ないような小さなスペース。
それでも、Aさんも内心どきどきしながら、手を突っ込んでがさごそと漁ってみた。
すると、なにやら手に触れる、大きくはないが硬くて重い感触。意を決して引っ張り出してみた。

Aさんの手に握られて出てきたのは、ハサミだった。大振りの裁縫とかに使う裁断用の鉄バサミ。
刃の部分は赤茶けてすっかり錆びていて、ぼろぼろの様相だったが、そこで叔父さんは気付いてしまった。
「おい、A…これ…錆びてるの、きっと血のせいだよ…。うん、間違いない」
顔を真っ青にした叔父さんからそう言われて、さすがのAさんもブルってそのハサミを取り落として
しまったそうな。
叔父さんからの事情説明が始まった。件の、自殺してしまったこの部屋のもと住人の話だ。
そのメンヘルさんは、結構長いこと心を患っていて、自傷癖があったそうで。
メンヘルさんのご家族もそう遠くないところに住んでいて、ちょくちょく面倒を見に来ていたそうだが、
自傷を止めようとしないメンヘルさんを止めるために、家中の刃物という刃物を取り上げていたらしい。
それでも、取り上げるたびにまた自分で買って自傷し、それをまた取り上げる、という悪循環。
家に連れ戻そうにも、そうしようとすると暴れて手が付けられなくなり、仕方なく、
離れて暮らしながらもちょくちょく訪れては見守る、という生活をしていたらしい。
そうこうしているうちに、メンヘルさんは自殺。その人の荷物は全て、家族が来て引き払ってそれっきり…
という話だったそうで。
でも、どうやらメンヘルさん、家族に取り上げられないため、こっそりこのハサミはここに隠していた。
他は取り上げられても、これだけは…そんなことだったんじゃないかと、叔父さんは語った。

後になってみれば、あのシャリシャリという音は、ハサミを打ち鳴らすシャキリ、シャキリという
2枚の刃の擦れる音だと思うと納得がいった。
その刃で後の住民が傷つけられることはなかったが、外で亡くなったメンヘルさんの浮かばれぬ霊魂が、
この部屋に帰ってきては押入れのハサミを取り出し、自傷に耽っていたのではないか…
そう考えてしまい、Aさんもこの時は強い恐怖に襲われたという。

その後、ハサミは叔父さんの手でメンヘルさんのご家族の手に還され、供養されたとか。
Aさんは、怪異の起きなくなった件の部屋で、大学卒業まで暮らしたというお話ですた。
以上でオシマイ。

押入れの屋根裏を開けるシチュで、呪怨思い出してよくAさん手ぇ突っ込んだなー…
とか変な関心をした記憶あり。

俺だったら叔父さんにやらせる…w


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