[部屋の音]

聞いた話ですんまそ。別に祟られてどうこうって重大な結果には至ってないが、
聞かされて背筋が薄ら寒くなったお話。一人暮らしの人はちょい怖いかも。

飲みの席で、先輩から聞かされたその友人(以下Aさん)のお話。
今から数年前、大学進学を機に一人暮らしを熱烈希望していたAさんは、
金銭的+通える距離のため反対していた家族との折り合い、という意味も含め、
Aさんの叔父が持っていたアパートの一室を紹介してもらうことになった。
仕送りは最低限、あとは自分で何とか汁、が第一条件だったので、兎に角安く、
と頼んでいたAさんに叔父さんが紹介した部屋は、事故物件、ではないものの、
曰く有りの部屋。
Aさんの数代前の住人が、メンヘラで最終的には外でだが自殺してしまったという所。
それ以来、借り手が長く居つかず放置気味になっていたということだった。
叔父さんも、「お前の希望額だとここしか貸せんのだが…正直、あまり勧められんぞ。
はっきり言うと、俺もこの部屋の空気…っていうのか、なんか嫌いなんだよ」
などと忠告していたが、Aさんはなかなか豪気な御仁で、
「安いにこしたことないし。大丈夫だって、俺そういうの気にしないもん」
と、押し切って住まうこととなった。

Aさんの自信にもまあ、根拠がなくはなかったわけで、その亡くなった人も
この部屋で亡くなったわけじゃないし、引き払った借主たちも、別に入院した、
とか事故にあった、とかきな臭い後日談があったわけじゃない(叔父さん情報)。
ならば何があったところで…と思うに至っても不思議じゃなかったわけで。
別にそれがどれだけメリットになった、ということではないにしろ、
夢であった気ままな一人暮らしをAさんは手に入れた。

しかしまあ、実際に住んでみると、「不気味」といわれる所以も理解できるような
ことがあったそうで。
普段は別段何もないんだけれど、時折、部屋がしーんと静まり返っている深夜などに、
変な音が聞こえてくることがあったという。
シャリッ、シャリッと、どことなく軽快な、何かを擦り合わせるような音がそれ。
注意していないと聞き漏らすようなささやかな音だったけれど、時折どこからか聞こえる。
アパートのほかの住人ではない、ということは、以前の住人から相談を受けた叔父さんが
確認しているというのに、となれば彼の部屋しかありえないわけだが、聞こえてくる。
初めはAさんも無視していたそうだが、その内いくらなんでも気になってきて、
音の発生源を求めて部屋中をチェックしたりしたそうだ。

それでも、特に発生源が見つかることなく、流石に多少のイライラが募ってきていた頃、
またある日の深夜、寝ていたらシャリッ、シャリッという音が聞こえてきた。
これまでの経験から、あんまりドタバタ騒ぐとその音が止んでしまう、ということを
学習していたAさん。音を立てないようにそろりと寝床を抜け出して、兎に角耳を澄まして
音の根源を探った。
結果、その音は、まあよくある話だが、彼の部屋の押入れの方から聞こえてきていた。
流石にぞっとして、その日はとっさに部屋の電気を付け、深夜ラジオを付け、
シャリシャリが聞こえなくなったことを確認してからそのまま就寝。
あくる日、これまで何度も調べたはずの押入れの再調査を図ることとした。

次の日、叔父を呼んで事情説明、二人で押入れを見てみることに。
とはいえ、開けてみてもAさんの僅かばかりの荷物が納まっているだけで、別段怪しいものはない…
意を決して、荷物を全て出し、潜り込んで調べてみることに。
すると、あちこちいじってみた結果、意外なものが見つかった。
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