[髪の毛]
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もう夜も遅いし、後日ちゃんと調べてみようという事になり俺達は帰る事にした。
部屋のドアを開けて玄関に向かう途中にBが「おい・・・ちょっ・・・これ・・・」と
すごい顔で風呂場の中を指さしているので中を覗いて見ると。

一握りくらいの毛の束が風呂場に落ちていた。

それを見た瞬間背筋に走った悪寒は今でも忘れられない。
4人全員が転がるように外に出て近くのファミレスに入った。
しばらくして落ち着いてきたのでさっき見た毛について話が始まった。
確かに4人で部屋の中の毛を拾ったはず、仮に取りこぼしがあったとしても
あんな目に付く毛の束を見逃すはずがない。
と言うことは俺たちが拾って帰ろうと部屋を出るまでの間に落ちたという事、
あの部屋には4人しかいなかったし、外から人が入ってもすぐわかる。
Aは確定的な出来事を目にしてすっかりびびってるし
BもCも俺も恐怖と興奮で頭がいっぱいだった。


4人で髪の毛を集めたり長さを測ったりしてひっかき回したせいなのか、
次の日事態は急変する事になる。

朝になるまでファミレスで過ごし、Aはまだあの家に帰りたくないと言うので
Bの家に行き、Cと俺は一旦家に帰り、土曜日で休みなので
ひとまず寝てからまた集まろうという事になった。

夕方に目が覚めてしばらくするとBからメールが来て
「19時にさっきのファミレスで集まろう」という流れになった。
ファミレスで集まった俺達4人はどうするか話し合い、
とりあえずAの家の様子を見に行く事にした。
Aの家は前日飛び出したまま、外から見ても電気が点けっぱなしなのがわかった。
Aが鍵を開け、ドアを開ける。
ドアが開くまでの瞬間は何か身体が浮いているような感じで生きた心地がしなかった。
ドアを開けるとまず玄関に数本ではあるが毛が落ちていた。

もう誰も何も言わない。
風呂場を覗く、昨日の毛の束があるが他は変わったところはなかったと思う。
トイレ、台所、廊下には毛があった。
昨日あれから誰も入っていないはず、しかし毛は落ちている。
俺はもう内心「夢とかドッキリとかじゃないか、むしろそっちの方がいい」とか
恐怖と興奮で現実にいるのか夢にいるのか曖昧な感じだった。


とりあえず部屋の中以外はチェックしたのでいよいよ部屋だと言う時に
Aが「ヒュー」と空気が漏れたような声(悲鳴だったのかもしれない)を出した。
俺がAに「どうした?」と聞くとAは引きつった顔で部屋を仕切るガラスつきのドア越しに
部屋の中を指差している。
BとCと俺は視線を部屋の中に移した。
テーブルの上には昨日集めた毛の束がある。
別に何かいるわけでも何でもない。
俺は「別に何もいないぞ?」とAに言うとCが「窓・・・」とかすれた声で言った。
Aの部屋の窓は上半分が普通のガラス、下半分が曇りガラスになっている。
上半分には何もない、夜なのですぐそこの物干し竿だけしか見えない。
だが下半分、曇りガラスの向こう側にいた。

座り込んでいる髪の長い女がいる。

上が白い長袖のようなものなので曇りガラス越しでも毛の長さがわかる。
もう直感的に「この毛はこの女のだ」と思った。
今思えば生身の女だったのかもしれない(それはそれで怖いが)がはっきりと幽霊を見てしまった。
あの時、全身の血が足の方に落ちていく感じがした。
4人全員が悲鳴をあげるでもなく、震える足を引きずって静かに静かに部屋を出た。


その後Aは引っ越すまで俺達の家を泊まり歩いた。
俺達もあんなモノを見てしまったのでAを泊める事は暗黙の了解になっていた。
引っ越しの荷物をまとめるために数回あの部屋に行く機会があったので
オカルト板で見た『コップの中に日本酒を入れて置いておく』『盛り塩を部屋の4隅に置く』
等をだめもとでやってみたのだが、
次に部屋に訪れた時、日本酒はかなり白く濁っており、盛り塩はカチカチになっていた
(これは湿気のせいかもしれないが)
Aは引っ越した後、何事もなく今では普通に生活している。
しかし部屋に落ちている毛は今でも気になるらしい。

結局あの部屋のとなりが神社だった事との関連やあの女が何だったのかは
分からないままです、まあ分からない方がいいのかも・・


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