[隠されていたもの]

俺が小学生だったころ、小学校では「学校の七不思議」が大ブーム。
「七つ全部の話を聞いたら死んじゃうんだって」なんて迷信が、
おっかなびっくり語られていた。
ならば、うちの学校にもきっと七不思議があるに違いない!と、
学級新聞係だった俺は無意味に張り切った。友達や先生、用務員のおじさんなどに
聞き込みしたり、怪しそうなところ(理科準備室の人体標本、音楽室のベートーベン、
トイレの3番目の部屋、etc)を探検したりと、色々調査したわけだ。
とはいえ、所詮ブームはブームに過ぎないわけで、現実に七つもの
不思議な話がそんなに簡単に集まるはずもなく、どこかで聞いたような
話のパクリがほとんどだった。

でもね、一つだけは違った。なにせ私が体験した話だったからね。

体育館の放送室に向かう薄暗い通路が、ちょっとしたスリルを楽しめる場所だった。
舞台の横のカーテン裏、控え室みたいなスペースの端に、少し曲がった上り階段がある。
それを上ると、(入学式の音楽とかに使う)小さな放送室に辿り着く。
放送室の窓からは、カラフルなラインシールが貼られた床の上で、みんなが
遊ぶ様子が見える。お化けが出そうな、薄暗い雰囲気。私はその場所が好きだった。

その階段の、上り切る直前のところに、小さな扉があった。
赤ちゃん一人がようやく入れるくらいの大きさの扉。子供ながらにも、
明らかに変なスペースだと思った。掃除用具を入れるならもっと大きいだろうし、
他のものを入れるにしたって、階段と放送室の間にぽつんと存在する
意味が分からない。マイクのような備品を入れるのなら、放送室の中でも
いいはずだし。そんなわけで、極秘調査対象としてその部屋はマークされていた。
チャンスは、先生がいない時だ。

6時間目が終わって、日が沈みかけた体育館。先生が職員室に帰った後、
数人が残って用具の片付けをしているところを、自分だけ隠れて階段を上った。
そりゃ、怖かったよ。
でも、その扉の横を先生たちは普通に上っていたわけだから、恐ろしい
化け物がいるってことはないだろうって、冷静に考えてた。
だから「何だろう?」という純粋な好奇心で、私はその扉を開けた。

そしたら、本があるの。ぼろぼろに変色してたり、くしゃくしゃになってたり、
破れてたり、すごく古そうな本。それも十数冊も!大発見!大発見!大発見!
まあ子供ですから、大興奮しちゃったわけです。
で、一番近くにあった本を一冊パクって、あらゆる技能を振り絞って
学級新聞に載せた。もう超カラフルに大見出しで、「学校の七不思議号外特集号」。
メインは、パクった本の表題を書き写して、「こんな本が隠されていた!」
でもやっぱり七つ全部載せちゃマズイと思ったから、その「秘密の部屋」含めて
六つ載せた。(それでも別の話を知ってて、「私死んじゃうの!?」って
泣き出した子がいたけど)

そして学級新聞の掲示から数日後、その小さな小さな部屋は「鍵」によって
完全に封鎖され、中の本は全て焼却処分されたと聞いた。ちょっと悲しく
思った記憶がある。え?持ち出した本のタイトルが何だったかって?


「こっくりさん入門」

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