[小説風・]

夕暮れ時の恐怖
…つい、うとうとしてしまっていたんです…。
ですから、私がどこにいるかなんて、全く気付きませんでした。そう、私はいつの間にか、見知らぬ部屋にいたのです。
その部屋は、一度も来たことがないはずなのに、どこか懐かしさを漂わせていました。哀愁、とでもいうのでしょうか、夕暮れ時の紅い空の色と相まってそれはどこか儚げで、手を伸ばせば脆くも崩れ去ってしまう、そんな思い出の中に、その部屋はあったのです。
もちろん、一度も訪れたことがないのは事実であり、私はその感情を、デジャヴ、と名付けました。

その部屋のインテリアは至ってシンプルで、縦長の本棚と、古臭い勉強机があるだけでした。
本棚にはくだらない少年マンガがずらりと並び、押入は少し開いていましす。
普通ならばそこにあるはずの布団はなく、押入はまるでそこが別世界への門であるかのようにぽっかりと暗闇の口を開けて獲物を待ち構えていました。
ふと沸き上がった好奇心から、私は押入に近づきました。

一歩、二歩、三歩。

少しずつ、慎重に近付きます。
私が、押入の扉に手をかけた、その時でした。

ガタン!

突然、鉄製の勉強机の引き出しが開いたのです!
もちろん、周りには誰もいません。私以外には。
しかし、真に驚くべきはこの直後でした。

「よいせっっと」

あの、独特の色、独特の声。
私は見たのです。引き出しから、ヤツが、這い出てくる姿を!
青空のように透き通った青色の球体が、私の目の前に現れたのです!
ヤツの白い、短い手は今、引き出しの縁を内側からしっかりと掴んでいます。

出てくる…!
アイツが、時空を越えて…!!

頭の中で、警報がガンガン鳴り響いているにも関わらず、私の足は地面に張り付いたまま、びくとも動きません。
怖がっている場合じゃない。

早く逃げないと…!

ヤツは、もう振り向こうとしていました。
もう、駄目だ。
私がそう悟った瞬間。




次に気が付いたらとき、そこは見慣れた私の部屋でした。

夢、か…。

ふと外をみると、暁の空が建物までをも紅色に染めていました。

デジャヴじゃなかった…。

誰に言うともなく呟くと、僅かに汗ばんだ髪をかきあげ、私は溜め息をつきました。


次の話

Part102menu
top