[どこまでもツイテクル]前ページ


しかしAは自分の目を疑った。Bの顔の後ろに鬼の形相をした顔が浮かんで見えた。
「早く逃げろ!!」
Aは突然の事にあっけにとられているBの手を引っ張りながらその場所を去った。
逃げる最中にBに簡単にそのことを告げた。
するとBがもうすぐ山道を抜けるというところで突然叫び出した。
「おいっ、なんだあれ!?」
A達が走っていく方向に黒い塊が動いていた。
大きさは大体1メートル弱で、人間とも動物とも言えないような物体があった。
そしてその物体はナメクジのように這うようにして動き、A達の行く手を阻むような感じだった。

Bは驚き、来た道を戻っていった。

そしてAもそれに続こうと思ったが出来なかった。
Bが走っていた道を見てみると、木の間に無数に伸びる手が手招きをしていた。
その光景は異様で、月明かりが無く前方の黒い物体の姿は見えないのに、無数に広がる手だけは
発光体の様にうっすら見ることが出来た。

AはすぐさまBを呼び戻そうとしたものの、Bには手が見えていないらしくそのまま暗闇に消えていった。
Aは迷った後に、黒い物体の方に走っていった。
眼をつぶり、時々半眼を開けながら黒い物体にぶつからないようにその場を走り抜けた。

山のふもとまで出ることができ、少し安心して後ろを振り返った。

すると先ほどの物体が追いかけてきているではないか。ナメクジなんて動きでは無い、
まるで地面を滑るようにしてAに迫っていた。
山のふもとまで出たおかげで月明かりがその物体をかすかに照らし出した。
しかしそれでも、その物体は見えない。周りの草や木なんかはそれなりに見えるのに関わらず、
その物体だけはどうしても見えなかった。まるで暗闇が地面を這っているように見えたと言う。
「うわあぁぁぁぁ!!!!!!」
Aは一心不乱に駆け出した。

五分ほどしたであろうか、Aは近所の小学校まで逃げることができた。
Aは逃げるときにとっさに掴んだ自分のバックからTシャツを出し身に着けた。
しかしさすがに深夜の小学校にトランクスとTシャツ姿でいるとこを見つかったら問答無用に
捕まると思い、Aはその後は見つからないように帰路に着いた。
途中、後ろから何か追いかけられているような気はしたものの、あえて振り返らず小走りで十分ほどで
家に着いた。

Aはそのままお風呂に入り、逃げるように布団に入ると眠りに付いてしまった。

そして翌日、Aは眼を覚ますとすぐにBのことが気に係り電話を入れた。
「なんだよ、こんな朝っぱらから‥」
Bは何事も無かったのかのように話している。Aは不思議ながらもあの後の経緯を尋ねた。
「は?何言ってんの?昨日ずっと家にいたし。まずお前に電話なんてかけてないし。」
予想外の返答が帰ってきた。Aは必死に昨日の出来事を説明した。
「どうせ夢の中のことだろ?お前寝ぼけすぎ。」
Bの返答に苛立ったものの、同時に安心感も出てきた。
そしてそのまま電話を切り、何気なく着信履歴を確かめていた。
どうせ残って無いだろと思ったのもつかの間‥‥

あった!

確かに昨日の夜十時にBから着信がある。Aはとっさにバックを確かめた。昨日のままだ。
これは変だと思い、昼になるとBの家に行った。
Bはやはり何も無かったかの様な対応で、おばさんに聞いてもBはその時間にしっかり家に居たと言う‥‥
Bがその川原に確認に行こうと言い出したが、Aはとてもそんな気にはなれず遊ぶことも無く家へ帰った。

そして夜が来て、Aがもう昨日の事は忘れようとテレビを見ていた頃である。
突然Aの携帯が鳴った。Bからである。
何か思い出したのかな、と思いその電話を取ってみると、
「なんできのうは逃げちゃったの‥‥‥‥」
それは明らかにBの声では無かった。Aは一気に寒気に襲われ、そのまま急いで電話を切った。
再びAの携帯が鳴る。予想通りBから‥‥いや、謎の者からだ。

Aはすぐに電源を切った。しかしそれでもしつこく着信音のみが鳴り響いたと言う‥‥

その後は何も無いらしい‥。
しかしその川の下流では毎年数人は溺れて犠牲になっていることは紛れも無い事実である。
その原因はただ川に溺れてしまっただけなのかどうかは分からないが‥‥‥


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