[いざなうもの]
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熱でふらつく体を起こし、ドアを開ける為に体を起こしました。
そしてドアの取っ手に触ったとき、この上ない恐怖を感じました。
ドアを開ける事が急に怖くなりました。何故かは分かりません。
顔を上げて女の人の顔を見ても、今では安心感は無くなっていて、
その整った顔にひたすら恐怖だけを感じました。

首を振って、開けないという意思表示をしました。
その次に起こった事は今でも忘れられません。

女の顔がくちゃっと寄りました。寄ったというのは、
顔の中心に向かって引っ張られる感じに歪みました。
その次に聞いた声も生涯忘れないとおもいます。
「あぁ〜〜〜〜けぇ〜〜〜〜〜てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜?」
男が腹の底から搾り出すような声でした。頭が真っ白になる感じがしました。
恐怖で、体が上手く動かせませんでした。体が浮いている感じでした。
入ってくる、と思いました。毛布をかぶって座席の間にうずくまりました。女は、
「うーーーーーーっ?」「ううーーーーーーーーー」「あけてえ〜〜〜〜〜〜っ?」
と叫びながら車の周りを走り回りました。
なぜか、自分から開けて入ってくることは出来ないようでした。
どれくらいそのままで居たか、突然車のドアが開きました。
その時の幼稚園児のショックを想像してください。
「どこで寝とるの、病院まで歩かないかんよ、ほら、立って」
それは母でした。

病院からの帰り、自分は母に、待っていた間の出来事を話しました。
母は驚きました。その女を人さらいだと思ったらしいです。
その時は自分も、言われるまま、同じように思いました。
しかし、中学、高校と年を重ねていくと、
ライトの無い駐車場で女の顔がはっきり見えた事や、女の顔を思い出して、
あれは人間とは少し違うものだったと思っているのですが、
実は車の鍵もしっかりされていて、中から開けないと開かない状態
だったのかもしれませんし、自分としても、基地外の人さらいの方が人外よりも怖いです。
確実に人生狂いますから。

法事で親族が家に集まる時、自分の不思議な体験を喜んで話す叔父が居るのですが、
その叔父に話した所、それは死神じゃないか、というような事を言いました。
今思えば随分適当な事を言われたと思いますが、その時はそうなのかな?とも思いました。
当時を思い返してみても断定は出来ません。でも、こういう体験をした事は間違いないです。
独自の解釈の様なものは出来るだけ挟まずに書いてみました。
ちなみに、高熱はおたふく風邪でした。


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