[地下の世界]
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僕が「え?クビ?」と言ってもう一度前方を見ると
今床に落ちたはずの物がなくなっていて、
代わりに血の染みのような物が残っていました。
僕が「あれ?今のやつは?血?」と言うと、
K子が今度は泣きそうな声で「手が出た!今そっから手が出た!」と言って、
何がなんだかよくわからない僕は
「手?あれは血?」などとわけのわからない反応をしていると、
廊下の角からさっきの男の子がゆっくりと現れました。
しかし口のまわりは血だらけで、シャツも腕も血だらけでした。
右手には人間の首みたいな物をつかんでいて、
よく見たらそれはお姉さんの顔をしていました。
そしてその切断面を自分の口に押し付けるとジュルジュルと音を立てて
吸い始めたのです。ニヤニヤした表情で横目でこちらの方を見ていました。
K子が小声で「逃げよ・・・早く逃げよ・・・」と言ってきたので、
僕とK子がじりじりと後ずさりを始めると、
そいつはいきなりお姉さんの首を僕の足に投げつけました。
僕はびっくりして尻もちをついてしまい、
お姉さんの髪の毛が僕の足にくっ付いて、虚ろになった目を見てしまい
「ふわあああ」と間抜けな悲鳴を上げてしまいました。
その直後、僕の真横をフッと風が通り抜けたような気がして、
次の瞬間プチが男の子に体当たりをしていました。
僕はすぐに起き上がるとK子の手を握って「逃げろ!」と叫び玄関ドアまで
ダッシュで走りました。
K子を先に外に出してから、振り返って「プチー!!」と叫ぶと
男の子が右手にプチの首を、左手にプチの胴を持ってブラブラと揺らしていました。
僕はプチを殺された怒りや悲しみよりも、男の子の化け物ぶりの方に物凄い恐怖を感じました。
僕は「オラー」と叫んでソファの上の買い物袋の中身を床にまき散らしてから、
外に逃げました。
階段を下りるとすぐにK子に追いつき、二人で必死で地面をめざしました。
そしてあと数段で地面に足が着くという時、階段のすぐそばの地面にいきなり
さっきの男の子が落ちてきたのです。
一瞬で先回りされて、さすがにその時は「うおをわーー!!」と絶叫して
死を覚悟しました。
K子は火がついたように泣き出しました。
しかしよく見るとその男の子は4階から飛び降りた衝撃のためか起き上がれずに、
顔だけこちらに向けてもがいていました。
僕はすかさず地面のコケみたいな砂みたいなものをつかんで、
そいつの顔面にぶっかけてやると、
K子の手をつかんで「走れ走れ!!」と怒鳴って、最初に通り抜けたドア
をめざして必死で走りました。
心臓がバクバクと鳴って今にも倒れそうになりましたが、気力を振り絞って
どうにかドアの前にたどり着きました。
そしてドアを開けると元の山の光景が広がっていたので二人でくぐりました。
周囲はだいぶ薄暗くなっていましたが、雨はやんでいて風は全く無く穏やかなものでした。
さっきの男の子が追っては来ないかと思って後ろを振り向くと、
今通って来たはずのドアがなくなっていました。
ホッと安心した途端に涙がこぼれてきて、僕とK子とでメソメソと
泣きながら山を降りてると、
僕とK子の母親や近所の人 4,5人に発見されました。
「もうあんたらどこうろついてたんよ?お母さん心配したんやから!もう!」
とガミガミしかられてから、僕とK子はそれぞれの母親におんぶされて
山を降りました。
母や近所の人が山を探していたのは、僕とK子がプチを連れて山に登っていくのを近所の人が
見かけたからとのことです。家に着くまでの間、僕はことの経緯をうわごとの様に話しました。
プチが死んだことも話しました。
母は適当に相づちを打っていましたが信じてくれたのかはわかりません。
それから3日間くらい僕もK子も高熱を出して寝込んでしまいました。
その間夢の中に何度かあの男の子が出てきました。
熱が引いたあと、数日前に体験した異世界での出来事に対して現実感がなく、
あれは全部夢だったのではないかというような気がしました。
しかしプチがいなくなったという事実は消えません。
そのあと友達何人かと何度か山に上って空き地まで行ってみましたが、
いつも吹いていた強い風はなくっていました。
やがて何ヶ月か経ってから僕は父の仕事の都合で引越しすることになり、
K子と離れ離れになりました。
K子の寂しそうな顔は今でもはっきりと覚えています。
それにしてもあのボインの姉さんは何者だったのでしょうか?
もしかしたらお姉さんは魔女みたいな人で、
僕とK子もあの男の子みたいな化け物にされていたのかもしれません。