でも、大きな図体のジュラルミンや鉄片と人間の姿が見えなかったのは
何故だろうかと疑えるのです。地面に散らばっていたものも、銅製品で
あるまいかと思われる物体が多くありました。鉄やアルミ合金などは溶け
てしまい、銅だけが残されていた感じでした。その外には、何百年か以前
のものらしい百姓民具のうち、銅製品の鍋や萓合羽の支え具らしいのも
散らばってました。
タイムマシンの世界に踏み込んだ思いで、私は息子へ目で合図して、
いわくありげな洞窟から逃げようとしました。口は利けなくなっていました。
強い風力に抵抗して脱出するのは相当の苦痛でした。洞窟から出た途
端に小高い山のいただきあたりから、白昼ですが写真のフラッシュより
も強烈な光線を浴びた感じでしたが、目がくらんで倒れたように思います。
これも後で聞いたのですが、息子は一遍は倒れたけれども再び起き上
がって、夢遊病者のように前の道を歩いて帰ったようだった、と言ってい
ます。そのへんは、はっきり分からないのですが、フラッシュに似た光は、
白くはなくて緑色の光線だったと断言できるのです。
何時間過ぎたのか分かりませんでしたが、ふと、目を覚ましますと、私と
息子の二人は、前に申し上げました老婆の住む洞窟の前に倒れていた
のです。起き上がった私達は、ほら穴に入ってみますと、人影はおろか
確かにあった諸道具は、何一つなく姿を消しているのです。そして炉端だ
った土面から泡が涌き出ていました。例の緑色に輝き光る泡が、生きも
ののようにうごめいているのでした。
私達が四日間も家に戻らなくて、大騒ぎになっていることも知りました。
それから、息子の方は二カ月ばかり安静してから、元の健康体に回復し
ましたが、私は現在でも近くの市にある精神科病院に通っています。先
生から、高空に長時間いたための症状に似ていると診断されましたが、
誰も私の話を信用してくれません。ですが、私だけではなしに息子も奇
怪な体験をしているのです。
私達は、信じられない現象を自分の目で確かめて、あそこの場所はいっ
たいなんだろうかと考えましたが、地球以外の天体からやって来て、少
なくとも何百年の間も、UFOなどの未確認物体を誘導する地球基地では
あるまいか。洞窟に住んでいたお婆さんは、老婆に姿をやつした他天体
からの派遣員だとも信じられるのです。
いくら考えても分からないのが緑色の泡でした。地球人の私達には理
解できなかったのですが、自在に色彩を変化させ、超短波のような電波
を発信して、通信の役目を果たしているとしか想像できません。
田代峠の山地に、複数の人間がこの目で確認しても、誰も本気にして
くれないことを情なく思います。
editor注:田代峠界隈は今でもUFOが目撃される。
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