[廃屋のミイラ]
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そのミイラは二体、その箱の中に入っていた。全長50cm程の不気味な人間だった。人間の筈が無いが、人間としか思えなかった。
7〜8頭身、赤子や猿の物ではなく、ましてや人形と言うにはあまりにも精巧な姿かたちをしていたのだ。
指先の爪は鋭く、また牙のような物が口からは覗いていた。「小人のミイラ」、そう呼ぶしかない物がそこには居た。
私達はあまりの恐怖にたまらずにその場から逃げ出してしまった。
ミイラ、つまりは死体である。そんな物を見つけてしまったのだから私達はすぐさま大人達にその事を告げ、一緒に来てくれる様に頼み込んだ。
だが、大人達は誰もそれを信じてくれなかった。ただ奇妙な事に年寄りの爺さん達だけは厳しく私達に「二度とそこへは行くな」と言うのであった。
翌日、そのミイラを再度見に行くべく私達は再びその家へと向かった。今度は先輩達も呼んである。
15人はいただろうか、流石にこれだけの集団なら怖くは無かった。しかしてそのミイラはやはりそこに有った。
今度はじっくりとそれを観察した。人形では無い、その場の全員がそれだけは誓ったのだった。

それから一年もしない間に、その空家は取り壊されてしまい今では立派な観光ホテルがその場所には建っているのである。
そのホテルを見るたびに、私は少年時代のあの不思議な経験をありありと思い出す。

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