[妊婦の幽霊]
前のページ

けれども…

例の急患の患者さんの所へ戻った時には時、既に遅し…
もう患者さんの容態は取返しのつかなくなってしまっていたのです。
何とかお腹の子供だけでも生かすことができれば良かったのですが…
悲しいことに、もう手遅れで大切な命を二つも同時に
失うことになってしまったのです。
急患で運ばれきた患者さんと一緒に病院へ来ていたご主人は
M先生から奥さんと子供のことを聞かされも最初のうちは
何を言われているのか理解できなかったようですが、
処置室のベットで横たわっている物言わぬ奥さんの姿を見て
「わぁーっ!!!!!」っと奥さんの体にしがみつき…
「うっ…嘘だろ?嘘だって言ってくれ!
  夢だって…悪い夢だって言ってくれよーっ!」
と泣き叫ぶばかり…

待望の子供の誕生を間近あでに控え、
毎日が幸せの連続だったの違いない平穏な日々…
それを突然 奪われてしまったのですから…それも仕方がありません。
そして…その姿は誰もが口を開くことをためらう程でした…

そして、その不幸な出来事から数日経ったある日のこと…

連日の夜勤で疲れていた私がウトウトしかけた時のこと…
時間はだいたい午前1時を過ぎた頃だったと思うのですが、
そんな真夜中にも関わらず私のいるナースステーションに
数人の入院患者さんが揃って顔を出したのです。

「どうしたんですか?こんな時間に皆さんお揃いで」
という私の問いかけに一人の入院患者さんが…

「私らの部屋にお化けが出るのよ…」
「えっ?」

私は、予想もしなかったその意外な言葉に思わず
吹き出しそうになったのですが、ナースステーションに来た
患者さんのあまりにも真剣な顔にとても笑って聞き流すような
雰囲気ではなかったので、どういう状況だったのかを尋ねてみると…

Aさん
「最初は泣き声だったのよ…何だかとても悲しそうな声だったわ…」
Bさん
「そうなのよ…最初は私も空耳だと思っていたんだけど…」
Cさん
「でもね!でも声だけじゃないのよ!お腹の大きな女の人が立っていたの!!」
Dさん
「けど、その女の人が悲しそうな顔をして泣いているのよ…
   まるで誰かを探しているみたいだったわ…」

それを聞いて後、もちろん私はすぐに患者さん達が入院している病室の方へ行きました。
しかし…

続く