[妊婦の幽霊]
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それらしい気配さえ感じられませんでした…
けれど、彼女達が嘘をついているという風にも感じられなかったし、
その時は何故か私自身も素直に彼女達を信じようという気になったのです。
ところが…
その幽霊騒ぎは その日だけではなかったのです!
連日どこかの部屋で幽霊を見たという人が出てきて噂は
「あっ」という間に病院中に広がってしまいました。
それから10日程経った頃だったでしょうか…
その噂が原因で患者さんの中には気味悪がって
他の病院へ転院すると言い出す人まで現れる始末で、
病院側もこの噂を単なる噂として放っておけないと判断したのでした。
そして私が夜勤を勤める日に…
とうとう噂の妊婦の幽霊を見てしまったのです…
それもとんでもない事件の真っ只中

深夜、私が規定の見回りを終えてナースステーションに
戻ろうと病棟の廊下を歩いていた時のこと。
誰もいないはずの個室から突然…

「ぎゃーっ!!!!!」

という男の人の悲鳴が聞こえてきたのでした。
私はビックリしてその悲鳴が聞こえたドアを開けて中を覗いてみると…
そこで私が目にしたものは!

白衣を真っ赤な血に染めて恐怖に引きつった顔のまま
ベットの脇の床にうずくまるM先生の姿があったのでした。
その傍らには、あの時 M先生と一緒にいたH先輩が…
自分の首筋に突き刺さった鋏を両手でしっかりと握ったまま
無表情な顔で病室の壁に寄りかかるように立っていました。

そしてもう一人…

そうです…
その先輩看護婦の横には妊婦らしい女性の姿が!
まるで湯気か煙でも見るかのように薄ぼんやりと
私の目には見えたのですが、その姿は間違いなく 
あの日急患で運ばれてきた妊婦の姿だったのです!

この傷沙汰事件を境に誰一人として
幽霊を見たという人もいなくなり、幽霊騒ぎも収まったのですが…
H先輩は出血多量のショックが原因で
植物人間状態になってしまいました…

続く