彼女はその夜会社での仕事を終え、友人と連れ立ってコンサートに行った。
終演後、かなり気分が高揚したこともあって、そのまま友人と居酒屋に入った。
話が尽きぬまま、気が付くと終電に近い時刻になっていた。
急いで駅に向かい、挨拶もそこそこ友人と別れ、一人電車に乗った。
ボーナスが出た週末ということもあって、車内は酔客やカップルなどで混んでいた。
彼女の家は郊外にあり、いくつかの乗り継ぎ駅を通過した先にあった。
異様な混み具合ではあったが、しばらく我慢すれば乗客も減るだろうと思っていた。
少しアルコールも入っているし、体も汗ばんでいる。まわりもそんな雰囲気で、
朝のラッシュとは少し様子が違うなと思っていた。
さっきから、スカートの後ろに手の甲が当たるみたいだが、まさかそんなつもりではな
いだろう。彼女がそう考え始めた頃、手のひらが向けられた。
彼女は酔いが覚めた。恥ずかしいのと悔しいので、気持ちが混乱する。
電車のゆれにあわせ、体をよじったりするが、一向にやめる気配はない。まるでこちらの
気持ちをあざけるように、その手は大胆になっていく。背後にいる男が怪しいのだが、前
後密着した状態で確認できない。 そのまま最初の停車駅に着き、彼女は車両を移ろうとし
た。しかし、人波に押されてホームに下りることができなかった。 それでも車内の中ほど
に移動することはできた。電車が動き出し、少し安堵していると、その手はいきなり来た。
あきらかに彼女を狙っている。人を蔑むような感触に、彼女は体を振って抗議した。
周りにいた二三人の男たちは、彼女に背を向けたり、両手を手すりに持っていったりと、
それぞれが無関係であることを示そうとした。それほど彼女の動作は露骨だった。
遠巻きに見ていた男性と視線が合い、その冷ややかな顔つきに、彼女の方が狼狽した。
続く