[岩登り]

僕が高校二年の頃、友達とよく埼玉県の飯能に近い昔から有名であった
岩登りの練習場に行きました。そこは基本的には私有地なのでしょうが、
しっかりした岩質と、人口登攀の練習ができること、首都圏に近いことなどから
早くから注目されていたようで、60年代には既に開かれていたのではないかと思います。
昔の安全性の不十分な装備で、よく登っていたものだと感心します。
岩登りは基本的に二人でやるもので、一人が登り、もう一人がロープを操作して
万一の落下の際に備える、というチームプレイをします。
その頃は休日になると、登り待ちができるくらい人気のあるところだったのですが、
やはり雨などがあるとあまり誰もきません。その日も雨降りだったのですが、
その頃僕たちはやはり若かったので、「今日は沢登りのつもりで」と
秋の雨の中その岩場に向かったのでした。

駅から10分くらい歩くとその岩場の入口になります。
幅の狭い山道入口には小さく祀られた赤い社が建っていて、それが目印でした。
そこからまた山道を10分くらい歩くのですが、いつもはそれなりに
陽光が漏れるその道もその日はさすがに薄暗く、ジメジメしていて、
木々も何だかしなだれて、重くのしかかってくるようでした。
足下の熊笹も、いつもはカサカサと軽い音を立てて軽快なのですが、
その日は静かで、しかも途中から霧がかっていたこともあって何だか嫌でした。
僕は夜明け前の真っ暗な山道も歩けるくらい恐がりではないのですが、
その日の重苦しさはいつもと違っていて、正直気味悪かったです。
長雨の蒸し暑さも手伝っていたのかもしれません。

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