[壁のシミ]

前ページ

チェックアウトを済ませ、昨日とは打って変わって雪も止んだ軽井沢を廻り、東京へ帰って来ました。
途中、お腹が空いたのでファミレスに寄る事にしました。
そこで彼氏が深刻そうな面持ちであの部屋のシミに付いて話を切り出して来ました。
「壁のシミ、見たでしょう?血の色みたいで気持ち悪いと思ってたんだよね。
話題にならないように気をつけてたんだけど、どう思った?」
「うん、私も血じゃないかと思った。でも、まさかそんな部屋に泊まらせないでしょう。
違うんじゃないの?」
本当は私もあれが血ではないかと思っていましたが、恐がりな彼氏でしたのであえて否定しました。
すると彼氏が、
「実はあの夜、夢を見たんだ。俺、普段滅多に夢なんて見ないんだけど。
その夢が凄く無気味なんだ。カラーで音が全く無いんだよね。
それで、どんな内容かって言うと、あの部屋に俺がいるの。
いるって言っても天井から部屋を見下ろしている感じなんだけど。
その部屋で中年のおじさんが女子高生を包丁でメッタ刺しにしてるんだよ。
女子高生が逃げ回って、あのシミが付いていた所に血まみれの手形をつけながら。
殺された女子高生は、あの窓から運ばれるんだ。
恐くて今まで話さなかったけど、どうしても気になって。」
「実は私、その窓の下にダラッと垂れているシミ、見ちゃったんだ」
「・・・・」

それから1ヶ月程たった頃でしょうか。
あれ以来、これといって変わった様子もなく私達は過ごしていたのですが、
ある日、彼氏の方が真っ青な顔をしてこう言い出しました。
「俺、霊とか信じないんだけど、あの夢がどうしても気になってあれからずっと図書館で
新聞のバックナンバー調べてたんだよ。
あのホテルで何かあったんじゃないかと思って。そうしたらさ、昨日、見つけたんだ。
ホテルの名前は違うけど、住所があのホテルだと思うんだ。
俺たちが泊まったホテル、もう何年も前になるけれど、中年の男が若い女の子を殺した事件があったんだ。
小さな記事で顔写真もないんだけど、多分俺が見た夢ってその事件じゃないのかなって」

彼氏が見た夢って、一体なんだったんでしょう。
彼氏が見たあの夢以外、特に何もなかったのが幸いです。

次の話

Part10menu
top