[壁のシミ]

もう何年も前になります。
当時、私は学生で、同じ学校に通う彼氏がいました。
付き合い始めて1年くらいたった頃、ほんの思いつきで2人で軽井沢へ旅行に行く事になりました。

その頃は3月、出発するその日は東京都心でもかなりの雪が降っていましたが、
お互いなかなか旅行に行く暇が作れなかったため、やむなく出発しました。
恋人同士の初旅行、しかも何かと経済的という事もあり、車で移動する事になりました。
東京を離れるごとに雪は強くなり、軽井沢につく頃には雪の中に足を踏み入れると
膝まですっぽりと埋まるくらいの積雪になっていました。

タイヤにチェーンを装着しましたが、これ以上山深く入っていく事は危険だと思い、
どこか適当な所で車を止め、取り敢えずその日の宿泊先を探す事にしました。
ちょうど春休みのシーズンにも拘らず、私達は当日に観光ガイドを頼りに宿を探すという無謀さで、
案の定どこの宿も満室、軽井沢中心部にある宿は全て断られていました。
仕方なく、軽井沢からは少し離れた市街地にある宿にしようという事になり、
観光ガイドのリストに記載されている宿を上から順にあたっていきました。

結局、なかなか空室のある所は見つからず、リストもあと数件の宿しか残っていないという時になって、
焦りながら電話したある宿でこういうやり取りになりました。

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