[廃屋]

友達の姉(仮名 H子)がしてくれた話し。本人の体験談とのこと。
長いので、分割します。怖くなかったらごめん。

ある夜、友達と三人で市内の高級住宅地にある不気味な廃屋に行くことになった。
そこは小高い山の中腹にあって、廃屋とはいっても実際は超高級な一戸建だ。

ただ噂によると、そこでは以前、家族内での惨殺事件があったらしい。(真偽不明)
懐中電灯を片手に、三人で家に入ってみた。
多分噂を聞きつけて探検しにきた同じような連中のしわざだろう、中は荒れ放題。

怖々広い家の中を歩いていると、かなり妙な間取りだということに気づいた。
「金持ちの考えることだから、わたしたち凡人のセンスじゃ解らないんだろう」
そう思った。

キッチンをほぼ中心として、それぞれ部屋や浴室が割り振られている。
が、浴室に入ってみると、反対側(つまり入り口の向かい)にもドアがあり、
その奥には普通の和室があったりした。

問題は、その和室だった。
懐中電灯で照らされたその部屋の四方の壁という壁には、筆字の走り書きで、
お経らしきモノがビッシリと書き込まれていたのだ。
まるで耳無し法一の体に書き込まれた経典のように、殆ど隙間なく。
それにおののいた彼女達は、叫び声を挙げながらその場から逃げようとした。

しかしその時、一人が持っていた懐中電灯が落ちてしまった。
その懐中電灯の明かりの下には、黒ずんだ巨大なシミが広がり、その周りでは
黒点がまるで這うように飛び散っている。

彼女たちは恐怖のあまり混乱し、足がすくんだまま動けなくなった。
すると頭の中で、低くて太い、そして頭を振動させるくらいの声らしきものが
聞こえてくるのだ。『・・・き、聞こえる?』『・・・・○ちゃんも?』
お互いうなづき合う三人。心臓が胸を突き破って出てくる程の恐怖の中必死で懐中電灯を拾い、そこまで来た経路を引き返し逃げた。

走って、走って・・・。
やっとのことで、車までたどり着いた。
そのままそれぞれの家に帰るのが怖かった三人は、H子の自宅に寄ることにした。

なんとか気を紛らしたかった彼女たちは、しきりに今し方見てきたものを 誰かがいたづらで書いたり、塗ったりしたもの」にしようと、夢中で笑い合った。

そうすることでなんとか気持の高ぶりを押さえた彼女たちは、すっかり朝になって
から、やっとそれぞれの自宅で眠りについた。

H子の部屋は、妹の部屋の隣にある。
H子が眠ってしばらくすると、階下の家族も隣の妹も起き出している様子だった。

なかなか熟睡とまでは行かなかったH子は、家族のざわめく音をなんとなく聞いていた。
それからどれぐらい時間がたったのだろうか。H子は暗くなった部屋の中で目を覚ました。

良く寝た...と伸びのひとつでもしたかったのだが、体が動かない。
目だけは開いたまま、金縛りになってしまっているようだ。
金縛りは初めてではなかったので、怖いとは思いながらも時間が経てば解けると思った。
でも、全く解けて行かない。瞬きもできなくなってきた。鼓動が鼓膜を震わせる。
H子は夕べの出来事を思い出していた。いや、無理矢理にでも脳裏に浮かんでくるのだ。
手足が冷たくなっていくのが、自分でも良く解る。
声を出そうにも、唇は動くのだが舌が喉の奥で縮こまり、息も酷く苦しい。

心臓の音が一度打つたびに、視界にあの部屋で見た筆書きの経が飛び込んでくる。
やめて・・・・やめてやめて!心の中で叫ぶH子。やがて・・・・
『怖い!』彼女の口がそう叫んだ。
いや、確かに叫んだはずだ。口が動いたのが自分では良く解ったのだ。
だけれど声が出ない。なぜ?金縛りが解け懸かったんじゃないの?
そう思ったところで、彼女の耳に聞こえてきたのは

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