[怖い夢]
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そこまで聞いて、俺は京介さんを止めた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。それってもしかして、ていうか、
 もしかしなくても夢ですよね」
「そうだよ。すげー怖い夢」
京介さんは両手をを胸の前に伸ばした格好のままで、きょとんとしていた。
そのころから他人の夢の話は怖くない、という達観をしていた俺は尻のあたり
がムズムズするような感覚を味わっていた。

自分の見た怖い夢の話をする人は、相手の反応が悪いとやたら力が入りはじめ
余計に上滑りをしていくものなのだ。
「まあ聞けよ。そのゾンビどもから逃げたあとが凄かったんだ」
話を無理やり再開した京介さんの冒険談を俺は俯いてじっと聞いていた。
この人は、朝っぱらから自分の見た怖い夢を語るために俺を呼び出したらしい。
まるっきりいつもの京介さんらしくない。いや、京介さんらしいのか。
夢の話は続く。
俺は俯いたまま、やがて涙をこぼした。
「・・・・・・それで、自分の部屋まで逃げてきたところで、て、おい。なんで泣く。
 おい。泣くな。なんで泣くんだ」
俺は自然にあふれ出る涙を止めることができなかった。
視線の端には、水が抜かれた大きな水槽がある。
京介さんを長い間苦しめてきた、その水槽が。
「泣くなってば、おい。困ったな。泣くなよ」
俺はすべてが終わったことを、そのとき初めて知ったのだった。
去年の夏から続く一連の悪夢が終わったことを。
結局俺は、さいごは蚊帳の外で。なんの役にも立てず。
京介さんや彼女を助けた人たちの長い夜を、俺は翌朝のパチンコをする夢で
過ごしていたのだった。
「まいったな。泣くほど怖いのか。こどもかキミは」
泣くほど情けなくて、恥ずべきで、そしてポケットに入れた魔除けのお守りを
すべて投げ出したくなるほど、嬉しかった。
京介さんの、夢を見た朝が、どうしようもなく嬉しかった。


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