[ある殺人者の話]
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「丁度君のマンションの周りを巡回する回数を増やしていて良かったよ。」
「なんで回数を増やす必要があるんですか?」
「念のためにね。」
もしかしたら警官が私の家を調べ封筒を持っていったのかもしれない。
「私の家に封筒が来てなかったですか?」
警官は一息つき言った。
「白い封筒と黒い封筒2通来ていたよ。」
その手紙を見せてもらうためにパトカーに乗った
白い封筒には『祝』と書かれていた。中身を見る。
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僕は殺人者に幸せを与えた。
みんな幸せ。
黒い封筒の中を開け中身を見た。
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幸せは簡単には与えられなかった。
殺人者は幸せがくるのを待っている。
僕も待ち遠しい。
はやく幸せになりたい。
「なんでこの手紙がきていたこと言ってくれなかったんですか」
「君の治療に良くないと思って。家族にも相談してその方が良いと言ったんだ。隠していてすまない。」
私の中の何かが冷めていく。
何故か自分が怖くなってしまった。
「帰ります。」
「送っていこう。」
私は家につきベットに向かった。
何なんだ。健二と会ったときのあの感情は。
確かに私は健二を殺そうとしていた。
私がいなくなってしまう気がした。
大学の帰りに久しぶりに飲みに行った。
楽しいはずの飲み会は全然楽しくなかった。
料理も酒もまずい。
「酒がまずい時は自分自身の何かだ病んでいる証だ。」
友人が笑いながら言っていた。
電車を降り家へと向かう。
階段を降りようとしたとき後ろから押された気がした。
酔っ払って自分で落ちたのかもしれない。
あいつが突き落としたのかもしれない。
どっちでも良かった。
私は気づくと階段の一番下にいて手にはアザができていて体中が痛かった。
近くにいたサラリーマン風な人が近づいてきた。
「大丈夫ですか?いま救急車呼びます。」
「大丈夫です。ただ転んだだけです。救急車なんて大袈裟ですよ。自分で病院行くので気にしないでください。」
そう言ってその場を去った。
家についた時にはもう痛みは感じなかった。
ある感情だけが私の体を満たしていた。
やられた。またやられた。あいつに。
悔しい。悔しい。悔しい。
次こそは。
何度も呟きながら私は包丁を手に持ちベットに向かって刺した。
何度も。何度も。何度も
私の部屋に人影がいるのが見えたような気がした。
誰だ。あいつか。あいつだといい。
私はその人影に飛び掛ろうとした時、私の体が固まった。
その人影は健二ではなかった。
彼女が泣きながら私を見つめていた。
彼女の視線から逃げるように部屋を見渡す。
ベットからは綿が飛び出していて、その綿は赤く染まっていた。
刺しすぎて自分の手を切ったんだろう。
私は手にしていたものを床に落とした。
涙が止まらなかった。
自分ではない誰かが私を乗っ取っている。
何が私を変えたのだろう。
彼女はぎゅっと抱きしめてくれた。
暖かかった。ずっとずっと泣きながら抱きしめてくれた。
私の中の殺人者が消えたような気がした。
凶器になりそうな物は彼女が処理した。
外に出る時はかならず彼女がついてきた。
私は変わらない風景を見たくなかったので外に出る。
平凡な風景を見ながら私は何かを探すようにただひたすら歩いた。
彼女は何も言わずついてきた。
夜になり風が冷たくなってきた。
私と彼女は歩道橋の上を歩いていた。
向こうから人影がやってきていた。
彼女が私の手を引き「はやく逃げよ」と言っていた。
私は意味が分からなかった。
何を恐れているのか。
その瞬間肩に熱い物が入ってきた。
私は倒れた。
ナイフが刺さっていた。
痛みは感じなかった。
私の殺人者が目覚めたような気がした。 ナイフを私に刺した人物が言った。
「殺人者は簡単には死なせてはいけないよね。
苦しんで死ななきゃ。
昨日夢を見たんだ母さんと咲弥が出てきたんだ。
教えてくれたよ。母さんと咲弥はトラックに引かれて死んだ。
お前もトラックに引かれて死ぬべきだよね。」
何か熱い物が私の体を満たしていった。
殺人者は肩に刺さっているナイフを引き抜く、
やっとか。やっとこの時がきたのか。
殺人者は健二の首を片手で掴んだ。
何処に刺そうかと悩んだ。
健二は必死に殺人者の腕をつかみ抵抗していた。
殺人者は首元に狙いをつける。
夢みたいに赤く染まるのか。
次は何処に刺そうか。
健二に向かってナイフを突き刺そうとした。
彼女が私の体にしがみつきそれを邪魔した。
やっと終わるのに。なんで邪魔するんだろう。
体の力が抜けナイフが地面に落ちた。
殺人者はいなくなっていた。