[邪教]
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そして儀式の晩。
俺は女と女の母親のいる寝室の前で安全靴を履き、手にはサップグローブと呼ばれる200g程の
鉄粉の入った皮手袋を嵌めて警戒に当っていた。
夜明けまで侵入者を排除して儀式を行えば仕事は無事終わる。
午前零時に始まった儀式は3時を過ぎて半分が終わった。
安心しかけていた3時30分ごろ、屋敷の外から人の争う怒声が聞こえた。
屋敷に侵入しようとした男が邸外で待機していた空手屋たちに捕まったらしい。
近所の住民が通報したのだろうか?
回転灯の赤い光が外から僅かに入って来ていた。

仏間の儀式は佳境に入ったようだ。
外の騒ぎも収まったようなので女と母親が寝ている寝室をのぞいてみた。
襖を空けた瞬間、俺は異様な気配を感じた。
寝たきりのはずの母親が介護ベッド上で上半身を起こしカッと見開いた目でこちらを睨み付けている。
ベッドの横の布団の上では女が体をクネクネとくねらせていた。
女の寝巻きがはだけて形の良い胸が棗球の明かりに照らしだされた。
下穿きの股間には大きな染みが出来ていた。
かなり長い時間、自慰に耽っていたようだ。

荒事にはかなり慣れているが、憑物のついた人間を見るのはその時が初めてだった。
かなり異様な雰囲気だった。
上着を脱いで女が抱きついてきた。
唇の端からよだれを垂らした口でキスしようとしてくる。
女はかなり可愛い顔立ちをしていたので普段なら喜んで相手をするところだが、今はそんな事をしている
場合ではないし不気味な歪み方をした女の表情に欲情できるものではなかった。
しかし、俺の体は理性とは裏腹に激しく勃起していた。
しかも、醒めた理性とは別の所で激しい性欲が起こっていた。
憑物から身を守る方法を知っていたから、俺は激しい性欲が自分の物ではないことに気付く事が出来た。
しかし、普通の男なら、例えば外にいる空手屋だったらたちまち性欲に飲み込まれて、
布団の上で女とSEXを始めていたことだろう。
少なくとも、以前の俺なら大喜びで女の体を貪ったはずだ。
女は何度引き離しても抱きついてきた。
俺は柱時計を見た。
時間は4時40分を過ぎたところだったか?
俺は女を押し倒し袈裟固めで押さえつけた。
・・・6時少し前、儀式は終わった。

いつの間にか、女は動かなくなり微かに寝息を立てていた。
母親もベッドに横になっていた。
外から朝日が入ってきていた。
襖の外には汗をびっしょりとかいたマサさんとキムさんが立っていた。
マサさんが「おっ?女とヤラなかったんだな。偉いぞw」
「女癖の悪い男だと聞いていたけれど、なかなかどうして、がんばったねえw」とキムさん。
「ふん。合格だな」
どうやら、今回の仕事は俺のテストを兼ねていたらしい。
この時を境に、俺は借金の取立てや、飲み屋のホステスや風俗嬢のガードではなく、
キムさんやマサさんのアシスタント的な仕事をするようになった。
結局、俺の運命はマサさんのところで修行をしたことで決定的に変ってしまっていたのだ。

終わり


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