[傷]
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まあ、この時には聞かなくても判っていたのだが、俺はマサさんに聞いた。
「背中の護符はあの井戸の中身から俺達の身を守るものなのですね?」
マサ:「そうだ。けれども、あの井戸があるから、君らに憑いた悪霊も君達に手出しする事は出来ないのだ。
君達を取り殺して、結界の中で一瞬でもあの井戸の前に晒されれば、たちまち取り込まれて、
井戸の中の悪霊と一体化してしまうからね。井戸の悪霊は君達の中の悪霊を取り込もうとして引き付ける。
一緒に引き込まれないように気を付けてくれ」

民家はマサさんの居宅だった。
家の中で俺たちは藍染めの作務衣のような服を渡されて着た。
マサさんは妙に薬臭いお茶を飲ませてから俺達に言った。
「その傷を何とかしなくちゃな」
傷の事を言われて始めて気がついたのだが、不思議なことに、この禍々しい土地に入ってから、
あれほど痛んだ傷の痛みはそれほどでもなくなっていた。
俺はそのことをマサさんに話した。
Pも「実は俺もだ」といった。
マサさんは言った。
本来、霊には生霊も死霊も生きている人間の肉体を直接傷付ける力はない。
殆どが怖い「雰囲気」を作るだけ。
相当強い「念」を持った霊でも「幻影」を見せるのが精一杯なのだと言う。
「祟り」で病気になったり、事故に遭ったりするのは祟られた人間の精神に起因する。
「雰囲気」に飲み込まれた人が抱いた「恐怖心」が核になり、雪だるまのように負の想念が大きくなって、
そのストレスにより精神や肉体、或いはその行動に変調を来した状態が「霊障」と呼ばれるものの大部分なのだと言う。
こういった「霊障」の御祓いは、所謂「霊能力者」や正しい儀式でなくとも、
「御祓い」を受ける被験者に信じ込ませる事が出来れば誰にでも出来る催眠術の類らしい。
しかし、俺達の場合は違うのだと言う。

マサさんは俺がユキに斬られた晩の話を聞き、ホテルの部屋を確認したという。
そして、フローリングの床を確認した。
ユキが刀の切っ先をめり込ませた作った傷があり、
俺が投げたライターか灰皿が当って出来たであろう部屋の入り口のドアの小さな凹みと塗装のはがれも発見したと言う。
出しっぱなしになっていたシャワーや小便の水溜りがあった話から、俺達の傷は所謂「霊体」に深手を負わされ、
それが肉体に反映したものだと判断したのだと言う。あの晩の出来事も、Pの体験も夢ではなかったのだ!
そして、そのことから、俺たちの霊体を斬った生霊の背後には「神」とでも言うべき霊格の高い存在が付いているのが判るのだと言う。
でなければ、肉体に外傷として現れるような深手を生きた人間の霊体に負わせることは不可能なのだ。
こういった霊格の高い存在が背後にある場合、祟られたのが朝鮮人の場合、
ごく例外的な場合を除いて通常の除霊も浄霊も不可能なのだと言う。
朝鮮人は「神」の助力を、特に日本国内では得られないのだという。
「個」や「家」ではなく、「血族」を重視する朝鮮人は祖先の「善業」も「悪業」も強くその子孫が受け継ぐのだそうだ。
朝鮮は遥かな過去から大陸の歴代王朝や日本の支配を受けてきた。
そして、同族を蹴落としながら支配者に取り入りつつ、その支配者に呪詛を仕掛け続けてきたのだ。
「恨」という朝鮮人の心性を表す言葉は、朝鮮人の宿業でもあるのだ。
自らを「神」として奉る民族や国家、王朝を呪う者に助力する「神」はいない。
そのような者への助力を頼めば逆にその神の逆鱗に触れかねない。
Pが、御祓いを頼みに行った祈祷師たちに悉く拒絶されたのはその為だったらしい。
「まあ、そのお陰で私の商売も成り立つのだけどね」とマサさんは笑った。

朝鮮人を守ってくれる神様はいないのですか?とPが聞いた。
マサさん曰く、「神」の助力を得るには長い時間をかけた「信仰」ってヤツが必要なのだそうだ。
いや、長い時間を重ねた信仰が「神」を作ると言ってもいい。
朝鮮は支配王朝が変わるたびに文化を変え、信仰まで変えてきた。
しかも、同族同士で呪詛を掛け合っても来た。
民族の「神」がいない訳じゃないけれど、その霊格は高くなりようがない。
儒教は厳密な意味で宗教ではない。
キリストは「神」だけれど、孔子は「神」ではない。
日本や中国と同じ神仏の偶像はいっぱいあるけれど「神」には「なっていない」。
だから朝鮮では、生贄を利用する蟲毒のような「呪詛」、
地脈や方位を巧みに操って大地の「気」を利用する「風水」が発達したのだという。
そして、民族全体が共通して信仰する霊格或いは神格の高い「神」を持たないが故に、
生きた人間が神を僭称し、時に多くの民衆の信仰を集めてしまうのが朝鮮の病弊なのだ。
朝鮮人はある意味、異常な民族なのだという。

続く