[危険な好奇心]
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俺は焦った。平常心を保つのに必死だった。
一瞬見た顔であの日の出来事がフラッシュバックし、心臓が口から出そうになった。
間違いない。『中年女』だ!
俺はうつむきながら歩き過ぎた。
俺はいつ襲い掛かられるかとビクビクした。
どれくらい時が過ぎただろう。いや、ほんの数秒が永遠に感じた。
内藤が『あの目見たけ?あれ完全にイッテるぜ!』と笑った。
佐々木も『この糞暑いのにあの格好!ぷっ!』と馬鹿にしていた。
俺と慎は笑えなかった。
佐々木が続けて言った
『やべ!聞こえたかな?まだ見てやがる!』
俺はとっさに振り返った。
『中年女』と目が合った・・・
まるで蝋人形のような無表情な『中年女』の顔がニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。
背筋が凍るとはこの事か。。。
俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便が出た。
バレたのか?俺の顔を思い出したのか?バレたなら何故襲って来ないのか?
俺の頭はひたすらその事だけがグルグル巡っていた。
内藤が『うわーっ、まだこっち見てるぜ!佐々木!お前の言った悪口聞かれたぜ!俺知らねーっ!』っとおどけていた。
もうガチャガチャどころではない。曲がり角を曲がり、女が見えなくなった所で俺は慎の腕を掴み
『帰ろう!』と言った。
慎は俺の目をしばらく見つめて『あ、今日塾だっけ?帰らなやばいな!』と俺に合わせ、俺達は走った。
家とは逆の方向に走り、しばらくして俺は慎に『アイツや!あの目、間違いない!俺らを探しに来たんや!』
慎は意外と冷静に『マジマジと名札見てたもんな。。学年とクラス、淳の巾着でバレてるし。。』
俺はそんな落ち着いた慎に腹がたち『どーすんだよ!もう逃げ切れネーよ!家とかそのうちバレっぞ!!』
慎『やっぱ警察に言おう。このままはアカン。助けてもらお。』
俺『・・・』俺はしばらく黙っていた。たしかに他に助かる手は無いかもしれないと思った。
『でも、警察に何て言う?』と俺が問うと慎は
『山だよ。あの山に打ち付けられた写真とかハッピー、タッチの死体、あれを写真に撮って、あの女が変質者って言う証拠を見せれば警察があの女を捕まえてくれるはずや!』
俺は納得したが、もうあの山に行くのは嫌だったが、仕方が無かった。
さっそく、明日の放課後、浦山に二人で行く事になった。
明日の放課後、裏山に行く。その話がまとまり、俺達は家に帰ろうとしたが、『中年女』が何処に潜伏しているか解らない為、俺達は恐ろしく遠回りした。通常なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った。
家に着いて俺はすぐに慎に電話した
『家とかバレてないかな?今夜きたらどーしよ!』などなど。俺は自分で自分がこれほどチキンとは思わなかった。
名前がバれ、小屋に『淳呪殺』と彫られた淳が精神的に病んでいるのが理解できた。
慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』と俺に言ってくれた。
この時俺は思った。普段対等に話しているつもりだったが、慎はまるで俺の兄のような存在だと。
もちろんその日の夜は眠れなかった。
わずかな物音に脅え、目を閉じれば、あのニヤッと笑う中年女の顔がまぶたの裏に焼き付いていた。
朝が来て、学校に行き、授業を受け、放課後、
午後3時半。。
俺と慎は裏山の入口まで来た。
続く