[時の止まる場所]
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おれは突然怖くなった。
少しからだが震えていたし変なギトギトした汗が出る感じがした。
結局バンドメンバーにあの話しはできずに、連絡先だけ交換してその日は解散した。
なんか言い知れぬ恐怖感と、現状を自分で確認したくて、
いてもたってもいられなくなった俺は、
その日の帰りにAのマンションの前まで行った。

俺はAの家の前を通ったが、家の明かりはついていた。
しかしAの部屋の明かりだけは消えていた。
さすがにここまで来ると、俺は怖いってよりヤバいと思い、
本当に切り詰められたような状態だったのを覚えてる。

Aの家族にも言わないといけないが、なんて言ったらいいか分からない。
母親は五年前に亡くなっており、弟はいくら問いただしてもその頃の記憶が無いという。
Aの母親にはなそうとも、直接「止まってた」現場にはいなかったし、
Aは「止まってた」話をしてなかったように思える・・・。
そして行方不明の今、その事は言いづらかった。

なんども自分でも検証したいとは思ったが、Aは二度目でおかしく?なってしまった。
そしておれはそこに行く勇気がなかった。
友達に話そうとも思ったが、
追い詰められた俺は結局誰にも話せなかった。

結局手段を思いつかなかった俺は、毎日Aに電話かけたりメールを送った。
返信は無いが、メールは送れた。
とりあえず1ヶ月以上、電話は時間帯を変えたりして毎日かけていた。
けど、Aからはずっと返信も着信も来なかった。
だんだん無駄なのかもしれないと思っていたが、
責任を感じてた俺はたまにメールをしたりしていた。
それから半年、Aの母親や妹と話す事もあったが、
やはりあの話はできなかった。
そしてAの家族も、俺に関係ある事だと思っていなかったらしい。

俺は責任から、携帯のアドレスをずっと変えずにいた。
するとAがいなくなってから半年たった頃、突然Aから着信があった。
気付くのが遅かった、着信があったのは二時間くらい前。
古い携帯で単純なアドレスだったので、出会い系メールやワンギリもあって
基本的に着信は無視していた。
Aに電話をかけると、Aはでなかった。
それから二日間、一日に何度も電話をし続けた。
すると、二日目に遂にAが出た。

Aはまず「今まで出れなくてスマン、いま遠くの親戚の家で暮らしている」と言った。
そして、Aは「あの時はスマン、本当に恐ろしい事があった」と話し出した。

Aの話をまとめると、まず幼い頃の話からしなくてはならないのだが・・・
Aは弟を振り切って物陰に隠れようとしていた。
そして気付いたら夜だった、母に手を引っ張られていた。
そのときは本当に記憶がなかったらしい。
それで家に帰ったのだが、その頃から変な夢を見るようになったらしい。
まず、自分は洞窟に入っていく。
最初は周りが見えるのだが、奥に進むと真っ暗闇になってるらしい。
そして、気付いたら目の前に壁がある。
どうやら洞窟はそこで行き止まりらしい。

すると足元から風が吹いている。
よく見ると、足元に穴があり、奥の方に不思議に光るキノコがあるらしい。
そして、そのキノコを覗き込むと洞窟は消え、
自分の周りをキラキラとラメの様に光る黒い影がバレリーナのように躍る。

続く