晴美の末路]
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それからなんですけどね、いつも同じ夢を見るんです。晴美の顔をした大蛇が、
私に巻きつき、締め付けてくるんですよ。そして体中の骨を砕かれ、頭から晴美に
飲み込まれるんです。凄まじい激痛なんですが、逆にこれが何とも言えない快感でしてね。
晴美の腹の中でゆっくり溶かされ始める私は、まるで母親の胎内に戻った様な
安心感さえ感じるんですよ。え?そのビデオはどうしたかって?Mから私が買い取り
ましたよ。それこそ、給料何ヶ月分かの大枚はたいてね。3本全部見て、
少し泣いた後、私は全てビデオを叩き壊しました。

それで、深夜仕事をしてると、晴美を感じるんですよ。
ビルなどの屋内を1人で見回るでしょう?すると、後ろからピチャピチャと
足音が聞こえてくるんですよ。振り返ると、誰もいない。でまた歩き出すと、
濡れた雑巾が床に叩きつけられる様な音で、ピチャピチャと。晴美かな、
と思うんだけれども、一向に姿を現さないんですよ。感じるのは気配と足音だけ。
そんな事が数日続き、流石に精神的にまいってしまいましてね、今現在、
休暇と言う事で仕事を休んでるんですよ。3日前です。とうとう晴美が現れたんですよ。
深夜、自宅のベッドでボーッと煙草をふかしていたら、白い煙の様な物が
目の前に揺れ始めたんですよ。煙草の紫煙かな、と思ったんですが、動きがおかしい。
まるで生きてるように煙がゆ〜らゆ〜らと形をとり始めたんですよ。
晴美でした。既に溶けかかり、骨が砕けた全身を、マリオネットの様に揺らし、
「まだある」方の眼球で、私を見つめてきました。何かを言いたげに口を動かしていますが、
舌が無いのか声帯が潰されているのか、声にならない声で呻いていました。
どの位の時間が経ったでしょうかね。いつの間にか晴美は消えていたんですよ。
恥ずかしい話、私は失禁と脱糞をしていました。はぁはぁはぁ、汚くてすみませんねぇ。
次の日の夜も晴美はやってきました。もう私はね、晴美に呪い殺されてもしょうがない
んじゃないかと思い始めてましてね。晴美が再び現れるのを心待ちにしてた部分もあったんです。
やはり、晴美は何か言いたげに口を動かしています。私は駆け寄り、
何が言いたい?私はどうすれば良いんだ?時計、時計、時計ありがとう、
あの時何もしてやれなくてすまない、時計は大事に持ってる、時計は、時計は。
半狂乱のまま、私は叫び続けたんです。すると、晴美が折れた首を健気に
私の方に近づけて、言ったんです。途切れ途切れながらも、ハッキリと聞き取れました。

「わたし、あんたのこどもほしかったな」

今日も夜が来る。


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