[リンフォン]
前頁
金曜日。奇妙な電話の事も気になった俺は、彼女に電話して、家に行く事になった。 
リンフォンはほぼ魚の形をしており、あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。 
「昼にまた変な電話があったって?」 
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。 
 それで通話押してみると、(出して)って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」 
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ド0モ一緒に行ってみる??」 
「そうだね、そうしようか」 
その後、リンフォンってほんと凄い玩具だよな、って話をしながら魚を 
完成させるために色々いじくってたが、なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。 
やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ、とか言い合いながら、四苦八苦していた。 
やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、着替えも持ってきた俺は 
彼女の家に泊まる事にした。 
嫌な夢を見た。暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。 
俺は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上だ。助かる。 
頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。 
「連  れ  て  っ  て  よ  ぉ  !  !  」 
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。再び眠れそうになかった俺は、 
ボーっとしながら、彼女が置きだすまで布団に寝転がっていた。 
土曜日。携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。 
そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」って事になった。 
市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。 
自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。所が予約がいるらしく、 
電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。その日は適当に買い物などして、外泊した。 
日曜日。昼過ぎに猫おばさんの家についた。チャイムを押す。 
「はい」 
「予約したた00ですが」 
「開いてます、どうぞ」 
玄関を開けると、廊下に猫がいた。俺たちを見ると、ギャッと威嚇をし、 
奥へ逃げていった。廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。 
俺たちが入った瞬間、一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、 
散り散りに逃げていった。流石に感じが悪い。彼女と困ったように顔を見合わせていると、 
「すみませんが、帰って下さい」 
と猫おばさんがいった。ちょっとムッとした俺は、どういう事か聞くと、 
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。 
 猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。こんな反応をしたのは始めてです」 
俺は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、俺の見た悪夢をおばさんに話した。すると、 
「彼女さんの後ろに、、動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」と渋々おばさんは答えた。 
それがどうかしたのか、と聞くと 
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」とそっぽを向いた。 
彼女も顔が蒼白になってきている。俺が執拗に食い下がり、 
「あれは何なんですか?呪われてるとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」 
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。するとおばさんは立ち上がり、 
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」 
「あのお金は…」 
「入   り   ま   せ   ん   !   !」 
この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。
その日彼女の家に帰った俺たちは、 
すぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、 
ゴミ置き場に投げ捨てた。やがてゴミは回収され、それ以来これといった怪異は起きていない。 
数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、紙とペンを持ち、こういい始めた。 
「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。偶然と言うか、こじ付けかもしれないけど、 
 これを並べ替えるとINFERNO(地     獄)とも読めるんだけど…」 
「…ハハハ、まさか偶然偶然」 
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね」 
「ハハハ…」 
俺は乾いた笑いしか出来なかった。あれがゴミ処理場で処分されていること、 
そして2つ目がないことを、俺は無意識に祈っていた。