[踏み入れるべきではない場所]
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それはな、みんなが坊の話を本当に怖いと思ったんだ。
 坊の話をきっかけにして、みんなが勝手に怖いものを創っちゃったんだよ。
 怖い話を作って楽しむのはいいけど、それが広まってよりおそろしく加工されたり、
 より危険なお話を創られてしまうようになると、
 いつの日か「それ」を知ったワシらの目には見えない存在が、
 「それ」の姿に化けて本当に現れてしまうようになるのかもな。
 あるいは目に見えるものではなく、心のなかにね。  

 「おそれ」はヒトも獣も変わらず持つもの。
 「おそれ」は見えないものも見えるようにしてしまう。本能だからね。
 だから、恥ずかしくないから、怖いものは強がらずにちゃんと怖がりなさい。
 そして決して近寄らないようにしなさい。そうすれば、本当に酷い目にあうことはないよ。

私は、じぃちゃんも何かそんな体験をしたのかと思って
「じぃちゃんも怖い思いをしたの?」と聞きました。
すると、予期しなかったじぃちゃんのこわい話が始まったのです。

昔、じぃちゃんは坊の知らないすごく遠くのお山の中の村に住んでいたんだよ。
 そこで、じぃちゃんの友達と一緒に、お山に肝試しに行ったことがあるんだ。
 そうだね、じぃちゃんが今でいう高校生ぐらいのころかな。
 お地蔵さんがいっぱい並んでいたけど、友達もいるし全然怖くなかった。
 でも、帰り道にじぃちゃんの友達が、お地蔵さんを端から全部倒し始めたんだ。
 「全然怖くない、つまらない」って言ってね。
 じぃちゃんはそこで始めてその場所に居るのが怖くなったよ。なんだかお地蔵さんに睨まれた気がしてね。
 友達を置いてさっさと逃げてきちゃったんだよ。
 そうしたらその友達はどうしたと思う?

死んじゃったの?
 ううん、それが何も起こらないで普通に帰ってきたんだよ。
 でもじぃちゃんはもうそれからオバケが怖くなって、友達と肝試しに行くのを一切やめたんだ。
 その友達はその後も何度も何度も肝試しといってはありがたい神社に忍び込んだり
 お墓をうろうろしたりお地蔵さんにイタズラしたり色々するようになってね。
 周りの人からは呆れられて相手にされなくなっていったよ。 
 人の気をひくために「天狗を見た」なんていうようになってしまった。
 じぃちゃんに「見てろ、噂を広めてやる」なんて言って、笑っていたよ。

続く