[生き人形]
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そして、次の日の朝、彼の奥さんが不思議な事を言いだしました。
「昨日泊られた方はどうしたの?」
昨夜タクシーから降りたのは、もちろん彼だけです。
とうぜん部屋に入ったのも彼ひとりです。
彼女は彼の後を付いて入ってきた人の足音を絶対聞いたと言い張るのでした。
そして、ソレが一晩中歩き回って五月蝿かったと・・・・。
次の日一緒に帰ったデレクターから首をかしげながら、彼にこんな事を聞いてきました。
「そんなわけないんだけど・・・・誰かと一緒に降りたけ????・・・・・・・」
その日の午後、稲川氏に仕事の依頼が入りました。
人形芝居「呪女十夜(じゆめじゅうや)」
不幸な女たちの十景のオムニバスで構成される幻想芝居。
その不幸な女達を人形が演じ、その他の登場人物は人間が演じるというものでした。
稲川氏は座長として今回の芝居に関る事になっていました。
打ち合わせ中、その世界では有名な人形使いの「前野」氏から、
いま作られている人形の絵を見せられて驚きます。
そこに書かれている絵は、あの高速で見た女の子そっくりだったのです。
台本がもう少しで出来上がる頃、前野さんの家に完成した人形が届きました。
稲川氏は台本の打ち合わせをかねて、前野さん宅にその人形を見に行くのでした。
芝居で使う人形は二体。
ひとつが男の子の人形で、もう一体が女の子人形でした。
その女の子の人形が、あの高速で見た人形であり、その後数々の怪奇現象をおこす人形なのです。
ちなみにその二体の人形は有名な人形作家「橋本三郎」氏が作られました。
前野さんは数百体の人形達と暮らしていました。
稲川氏は前野さん宅で出来上がった人形を見て不思議な事を発見します。
女の子の人形の「右手」と「右足」がねじれていたのです。
・・・・どうして直さないのかと前野さんにたずねると、「直したくても直せない」と。
この人形を作られた橋本氏が人形を完成させてすぐに行方不明になっていたからなのです。
そして、次の日、台本を書いていた作家の方の家が全焼してしまいます。
舞台稽古初日までに台本は間に合わなくなってしまうのでした。
稲川氏達は、壊れた人形、そして、台本無しで舞台稽古をはじめるのでした。
人形使いの前野さんのいとこの方が変死した電話がかかってきたその日から、
舞台稽古中の彼等に次々と怪奇現象が襲いかかってきました。
舞台衣装の入れたカバンやタンスに水が溜っていたり、突然カツラが燃えたり、
右手右足を怪我をする人が続出したりしたのです。
「呪女十夜」の公演の初日をむかえました。

続く