[猿夢+]
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とりあえず今何人が殺されているのか、僕は何番目なのかを知っておきたかった。僕
の乗る5号車の後ろ4分の1程は空席のようだ。しかし実は既に殺されていて、そこに
は『猿夢』のように『活け造り』や『抉り出し』された人が座って(?)いるのかも
知れない。僕が座っているのは前から6番目。まだまだ順番が来るには早いが、さっ
さと目覚めなくてはならない。しかしなかなか目覚める事が出来ない。その間に、何
度も聞こえる叫び声。と、いつもドリンクやサンドイッチを売り来る車内販売の女性
が、ニコニコしながらカートに内臓を乗せて押していくのが見えた。「もう駄目だ。
早く目覚めろ、目覚めろ、目覚めろ」

順番を確認するのに、僕はまた後ろを振り返った。すると後ろに座っていた何人かが
スッと消え、同じように席もなくなった。前から6番目にあったはずの僕の席は真中
あたりに来ていた。慌てる僕に、すぐ後ろに座っていたリーマン風の男が言った。
「目覚めたから席が消えたんだよ。アンタも早く目覚めないと、すぐに順番が来る。」
僕の8つ後ろの席から血が流れているのが見えた。大丈夫、まだ7人余裕がある。早く
目覚めて、もう2度とこの夢を見なければいい。

次の駅が来た。
『串刺し』
と、大変な事になった。自分の番が来るまで後7人あると思っていたのに、その駅で
一気に5人串刺しになって殺されてしまったのだ。次は僕の後ろのリーマンの番だ。
しかし彼はシート越しに穏やかな口調で話し始めた。「オレはもう目覚めなくていい
んだ。会社はリストラされたし、妻は、、、」ガクガク震えながら彼の身の上話を聞
いているうちに目が覚めた。

目覚めた時は冷や汗をいっぱいかいていた。あんなに長い夢だったのに、時計を見る
とほんの20分程しか経っていない様だった。『猿夢』、、、あまりにインパクトが強
過ぎたためにこんな夢を見たのだろう。あの話自体が、この電車への切符なのかも知
れない。とにかく、もう2度とあの夢を見ないようにしなくては、、、本当に、恐怖
のあまり心臓発作で死んでしまうかも知れない。


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