[地獄のバス]

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しかし、そんなことを告白されても私にはどうしようもなかった。
勿論バスにはトイレは無かったし、ハイウェイに乗ったばかりで次のトイレ休憩はまだまだ先だったからだ。

 「やばい?先生に言おうか?」
 「いや、言わんといて。」
蚊の消え入るような声で彼はよわよわしく訴えた。
そうなのだ。小学生にとって『うんこ』という行為は、イスラム教徒が豚を食うに等しいタブーだったのだ。
 しかし、彼の様子を見ていると、そんな事を言っている場合では
なさそうなのがわかった。

 「このままでは『ウンコマン』が『おもらしマン』にクラスアップしていくだけだ!」 そう考えた私は、彼の抑止を振り切り、先生に「安川君がうんこしたいって言ってます。」と伝えた。
わざわざ先生に接近して、小声で伝えたのは私なりの彼の名誉への気遣いであった。

しかし、先生はそんな私の気遣いに気付かず「安川君、ガマンできそう?もう出ちゃいそう?」
とバス中に響き渡る大声で彼に問い掛けた。
安川君の恨みがましい視線が私に突き刺さる。

一瞬で車内には静寂が訪れ、皆の注意は
『うんこがもれそうな安川君』に集まった。
先生が彼の隣の席へと移動したので、隣だった私は
先生の席へと移動が出来だ。

  「爆心地は避けれた!やった!」
不謹慎だが私のその時の素直な心境はそうだ。
最早私に出来ることは祈るだけだったが、
「安川君がうんこをガマンできますように」なんて祈ったら神様に怒られそうだったのでやめた。
大人しく事の成り行きを
見守ることにした。

 先生は「ガマンできそう?」とまだ問うていた。安川君は半泣き状態で
答えようとしない。

私は考えていた。もし「もうガマンできません」と彼が答えたら先生はどうするのだろうかと。
幼い私の出したベストの答えは
『バスを停車して道の端にうんこする』というものだ。
それ以外に考え付かなかったという事もあるが。
一休さんでもそう答えるであろうベストの回答を、もしその時が来れば先生も選択するだろうと思っていた・・・。
続く