[リベンジ]

今から3年程前の話。その頃の俺はなぜか心霊スポット巡りにどっぷりハマっていて、
全国各所のあらゆる廃墟――そのほとんどが無人の廃病院、廃ホテルなんかだったけど、
どんなに遠方だろうが構わず足を運んで、写真に撮ったり、データを記録したりしていた。
大抵はなんにも起こらず、廃墟をブラブラ歩いた後に近くの温泉で寛いて帰ってくるのがオチw
しかし、とある場所の廃墟で信じられないほど恐ろしい目に遭った。

インターネットで事前調査をした時点では、それほど怖そうな場所には見えなかった。
(たまたま調べたサイトがそっけなく紹介していたせいかもしれないが)
建築物の名前は〜〜館とかそんな感じで、どことなくお洒落な雰囲気の漂う西洋風の建物だった。
写真を見ると、それほど老朽化も進んでなさそうな程度の良さげな建物に見えた。
これまで結構多くの廃墟に入ったこともあって、実際に足を踏み入れるのに
大して危険はないだろうと判断した。友人に話すと、同行してくれると返事がきた。

しかしいざ現場に到着すると、調査が甘かったことに気付かされた。
入り口付近はほとんど崩れかけてボロボロに廃れており、半壊状態の正面玄関からは
とても中に入れるような状態ではなかった。建物から5mほど離れた草むらには
ロープや荷台なんかが放置してあり、サビついた車のパーツとかもあった。
それらを見た友人曰く、「かなり古いぞここ。30年じゃきかないくらい経ってる」とのこと。
あのサイトはだいぶ昔の写真を掲載していたということだろう。この現状に近いものを
調べることが出来ていればもっとマシな装備で来たんだが…泣き言を言っても始まらないので、
仕方なく裏口方面から中に入ることにした。

裏手のドアは鍵が壊れていたのでそのまま俺が先導で入り、友人が後続した。
建物の中はあちこちが崩れかけていて、入ってみると廃墟の中でもかなり危険度の高い部類だと分かった。
懐中電灯で前方を照らしながら進むと、二階への階段付近に妙なものが落ちているのに気付いた。
それはオルゴールのようなものに見えた。直方体の木箱に、円柱型の鉄の塊が収まっている。
オルゴールと異なるのは、円柱型の鉄塊が固定されずにただ木箱に入ってるだけという点。
かなり立派なもののように見えたが、箱には何も記されていなかった。
友人を呼ぼうと思った矢先、二階のほうから変な音がした。

「ぎぎゃぎゃぎゃ、がぎゃぎゃぎゃぎゃががが!!!」
凄まじい勢いで地面の上を何かで引っ掻くような、引き摺るような音。
自分らよりも先に先客が来ているという可能性もゼロではなかったが、
その音はともかく暴力的すぎて、まともな人間が出すような音ではなかった。
友人も悟ったらしく、「早くこっち来い!!早く!!!」
裏手のドアから逃げ出すも、2階のほうからはがぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと気味悪い音が
鳴り続いている。無我夢中で車を出し、洋館から数キロ離れたところまでノンストップで走った。

洋館から離れたこともあって、落ち着きを取り戻した俺らはさっきの音の正体について考えた。
友人が言うには、「絶対に人間じゃない。もし人間だったらイカれてる。」
俺も同じ意見だった。時計を見るとまだ午前11時。こんな昼間から、あんな廃墟であのような轟音を出すような
状況などあり得るのだろうか?まさか今更、取り壊しの工事などある筈もない。
腑に落ちないまま帰路につく訳にもいかなかったので、もう一度だけあの洋館を調べることにした。
廃墟の状態が思った以上にひどかったのでまずは装備を整えた。ヘルメットやプロテクターに加え、
ビデオカメラ、護身用のナイフも用意した。その日の夕方、再び洋館に向かい侵入を試みた。

裏手のドアを開けるや否や、友人と俺は片っ端から爆竹に火をつけて投げ入れた。
「バンバン、ババババババ!!!」
爆竹の破裂音に応えるように、さっき聞いた不気味な音が頭上で鳴った。
「ぎぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ、がぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃががががががガガガガガガガ!!!!!」
やはり2階だった。どの辺にいるかは見当もつかないが、これまでに聞いた中で最悪の音だった。
何より不気味なのは、凄まじい轟音であるにも関わらず、建物そのものには別段変化が見られないこと。
ふつう建物が振動したり、老朽化したコンクリが崩れてもおかしくないのに、音のボリュームとは
あまりに不釣合いな建物の様子が逆に怖かった。
その時、2階に爆竹を投げ入れようとした友人がぎょっとした表情になったのを確かに見た。
今度こそ本当の危機を感じたのか、友人は爆竹を投げずにそのままアイドリング中の車のほうに
駆け出して、俺も後を追うように乗った。
洋館の2階からは、耳を塞ぎたくなるような気持ち悪い音がぎぎゃぎゃぎゃと鳴っていた。
2階の窓を双眼鏡で覗くと、赤ペンキを顔中にぶちまけたような真っ赤な顔面の女がいた。
そいつはただひたすらに無感情なカオで立っていた。


それからは廃墟巡り、もとい心霊スポット巡りとは一切縁を切った。
友人はしばらく撮影したビデオの映像と格闘していたけど、結局何も映っていなかった。
一つ心残りなのが、階段の側にあったオルゴールのようなものを回収できなかったこと。
これを読んだ人の中にも、もしかするとスポット巡りなるものに心得のある人がいるかもしれないので
興味があったら調べてほしい。身の危険を感じたら、何もかも忘れて逃げれ。


次の話

Part212
top