[エディ]
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「ヤバい!タケ!車出せ!!」
突然エディがわめきだした。
「え?どうしたんですか?!」
「いいから早く出せ!来てる!!」

周囲を見回したが俺には何も見えなかった。
タケは言われるままアクセルをふかし、車を急発進させる。
「いるか?」
俺はタケに訊いたが彼も全く見えてはいないようだった。
後部座席を振り返ると、わめきちらすエディの横でサダが硬直していた。

「早くしろ!来てるってば!いっぱいいるんだよ!!」
エディは後ろを振り返りながらパニックになっていた。
そして数珠を握り締めながら九字を切ったり、お経のようなものを唱えたりしていた。
(なにこの出鱈目・・・)俺は素人ながらも冷めた目でエディの様子を見ていたが、
それでも狂ったように何かを唱えるその姿には怖くなってきた。
隣のサダもエディの姿に恐怖を感じていたのか、ドアに体を寄せ、必死で距離を置こうとしているようだった。
ハンドルを握るタケも必死だった。
咥えたタバコに火を点けることすら忘れ、タイヤを鳴らしながら車を走らせた。

ようやく町の灯かりが見え始め、タケはスピードを落としコンビニの駐車場に車を入れた。
「マジヤバかったなぁ」
大きく肩で息をしながらエディが言った。
「クラクション鳴らしてライト切った途端、いろんなとこからワラワラ出てきたんだぜ」
「俺、ぜんぜん見えてませんでしたけど、かなりいたんですか?」
俺はエディに尋ねてみた。
「馬鹿!オマエ、あんだけいたのに何も見えてなかったのかよ!
2〜30人はいたけどよ、あの中でも特に鎧の落ち武者みたいなのが・・・」
ひとしきり、どれだけヤバかったのかを語ると、エディは得意気に言った。
「何とか俺が○○経唱えて式も打ったからよ、無事に帰ってくることができたわけだな」
俺とタケとサダは顔を見合わせ、とりあえず「お陰様でした」と言うしかなかった。

俺たちはコンビニで飲み物を買い一息ついた後、そこから一番近いエディをアパートへ送っていった。
エディは意気揚々と部屋に引き上げ、ベランダから俺たち3人を見送った。
タケはエディを送り届けた後、さっきまでのことを語りたかったらしく、俺の部屋で飲もうということになった。
3人は再びコンビニに寄って酒とツマミを買い、俺の部屋で安堵のため息と一緒にビールを開けた。
「で、本当にいたわけ?」タケが尋ねる。
「いや、何も。でもエディのパニックがマジで怖かったよ。狂ったのかと思った」
俺は笑いながら答えた。

「サダは何か見えたの?」
タケの問いにしばらくの沈黙の後、サダが口を開いた。
「・・・うん、いたね」
「マジでマジで?!」霊感ゼロの俺とタケは興味深々で食いついた。
そしてサダはぽつりぽつりと語り始めた。
「あのさ、エディさんは2〜30人とか言ってたけど、いたのは1人。
あの人にはいっぱい見えてたのかもしれないけどね。でも、俺に見えたのは一人だけだったよ」
「例の落ち武者?」
俺が尋ねるとサダは首を振った。
「いや、そんなのはいなかった。だって、この辺ってそういう話聞いたことないし、
昭和になってから初めて造成された土地でしょ?落ち武者は考えられない。
俺が見たのは女の人だった・・・」
「どんな?」
「よくわかんないけど、不自然に首の長い女の人。髪が長くて・・・」
「それが車を追ってきてたわけ?」
「ううん、追いかけてきてるんじゃなくてさ・・・」
「?」
「エディの横に座ってた。すげえ気持ち悪くてさ、お経唱えたりしてるエディをずっと見てたよ。

ニタニタ笑いながらキチガイみたいな表情でね。」
俺とタケは凍りついた。
「・・・まさか、ずっと車にいたの?」
「ううん、コンビニに着いたときにはいなかったよ」
サダはビールの缶を握りながら言った。
「でもさ、部屋にいた。エディがベランダから手を振ってたじゃん?その後ろにその女がいたよ。
やっぱり首が異様に長くて、身長も2mくらいあった」

その後、タケとサダはウチに泊まって飲み明かすことにしたんだけど、
夜中の3時くらいにエディから電話があって、「眠れないから遊びに行っていいか?」
ということでヤツもウチに来たのよ。
その後は朝までエディの武勇伝的な話に付き合わされたんだけど、
やっぱり自分の部屋で『何か』を感じて気味悪くなったんじゃないかなw
とりあえず、ウチでは何の異変も無かったし、その後もエディの身に何か起こることはなかったよ。


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