[ジャグジー女]

知り合い(以下A)と用があって、Aの家に車で向かえに行ったんだ。
昔からの家で呼び鈴がないので、玄関前から呼びかけてみるけど応答なし。
しばらく「すみませーん」とか「向かえにきましたー」とか言ってたんだけど、誰も出てくる気配なし。
ど田舎なんで、在宅時は玄関の鍵閉めない家がほとんどなんだけど、A家の玄関も開いてて「こんだけ
呼んでるし、鍵かかってないって事は誰か居るんだろうし…何かあったのかも」と入ってみた。

そしたら、風呂場の前でAが汗びっしょりになって突っ立ってる。
私が近づいてもAは微動だにせず、見開かれた目は風呂場の中に向けられて小刻みに震えている。
「どうしたの?」と声をかけつつ、私も風呂場の中を覗き込んでみて思わず「ひっ」と声が出た。

浴槽の中で、色白の肩下くらいの黒い髪の(多分)女が体育座りで頭までスッポリ湯(水?)に浸かり、
口からジャグジー並みの物凄い勢いで空気を出している。
空気で良く見えないが、恐らくヤツの視線は私達へと向けられているだろうと直感。

目をそらしたらイケナイ気がして、でも、見ているのも恐怖で私も暫しAと共に硬直。
その間も、ヤツは息継ぎもせず相変わらずな勢いで空気を出し続けている。
それに、小さい子供ならまだしも、大人が体育座りで頭まで浸かれるものなのか?
ましてや、ヤツは私達から見て横向の浴槽に対して縦向に。私達の方に体を向けているのである。

もう、これは間違いなく人間ではない。
目をそらすのは怖いが、いつまでもこうしているわけにもいかないし…取り敢えず逃げるしかない!
と、固まっているAの腕を引っ張り、玄関の外に停めてある車へ猛ダッシュ!
が、お決まりの"焦って車の鍵が見つからない"。
やっとの思いで鍵を見つけ、ドアを開けてAを後部座席に蹴り入れ、エンジンをかけてバックで庭から出る。
庭から出る瞬間、玄関から何かが出てくるのが見えたが、何なのか確認する余裕は無く、取り敢えず
人の居そうな所へと車を飛ばすも、相当の田舎。延々と人気のない道が
後部座席のAをルームミラーでチラッと見てみると、真っ青な顔をして俯いている。
私が「さっきのは、家族…じゃないよね?てか、他の家族は?一緒に逃げてこなくて大丈夫だったか?」
と聞いても、汗をかきながら震えるだけで応えない。
「取り敢えず、今は逃げることに専念しよう」とルームミラーから目を外し、Aへの声かけもやめて
運転に集中していると、なんか変な歌声みたいのが聞こえる。

車で音楽はかけていない。周りは農道で音楽がかかっている訳がない。結構なスピードが出ているし、
例え農家の人が居たとしても会話が聞こえるわけがない。
ショックでAがおかしくなったのかもと「ああ、これは病院連れてった方がいいかな」とか思っていたら、
ルームミラーに車についてくる何かが写った。

ついでにAを見てみるが、Aは口をパクパクさせて、さらに汗を噴き出させている。
が、尚も続く歌声…というか鼻歌?たまに「ランララ〜ラ〜」とか、良く良く聞くと女のような声。
…Aが歌ってるんじゃない!じゃあ、誰が!?

ルームミラーに視線を戻す…歳は20代半ばくらいだろうが、高い位置でツインテールを結び、小学校低学年
の女児のような服装をした女が笑顔で歌いながら50m程後ろについてきていた。
髪の長さからいって、さっき風呂に居たヤツか!?
80km/h以上出てるのに!なんで、こんなに離れているのに歌声が聞こえるんだ!?
しかも手足が動いていないどころか、髪の毛1本すらなびいていない。
でも、確実についてきている…いや、むしろ近づいてきている!

もう半ばパニックになりメチャクチャに車を飛ばし、撒こうと道を曲がりまくる。
が、ハンドル操作を誤り、車がスピン。周りには電柱もあり「あー死んだかも」とか思ったけど、何回転か
した後、何にもぶつかる事なく進んでいたのとは反対向きで止まった。
ふと、顔を上げると前方10mにヤツが歌いながら笑いながら…

って、所で目が覚めた。
ちなみに、この夢見るの2回目。
前回は「風呂場を覗き込んだら、ヤツが居た」までだった。
知り合いは、前回と今回で違う奴が出演。
次、見たら終わりだなー。


次の話

Part212
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