[悲惨な死にかた]

私の友人に看護婦がいます。
彼女(仮にAさんとしましょう)から聞いた話です。

ある日Aさんは先輩看護婦と夜勤でした。
深夜2時を少し回った時のことです。
ある病室からナースコールがありました。
その病室は個室で、お婆さんが入院していました。
こんな時間に何かと思い、問いかけると、
その病室には簡易トイレ(?いわゆるオマル)があったのですが、
お婆さんはそこまで行けないので手伝って欲しい、そういうことでした。
Aさんはお婆さんの病室に行き、
お婆さんの用足しを手伝い再びナースステーションに戻りました。

しばらくすると、電話が鳴りました。
どうやら、火事で多くの人間が負傷したらしく、
Aさんが勤める病院にも何人か運ばれてくるとのことでした。
医師や他の看護婦に連絡したりして、
急に慌ただしくなりました。
火事の負傷者を乗せた救急車が到着し、
Aさんたちと、呼ばれてやって来た医師や応援の看護婦も
大忙しに動き回っていました。

そんな時、先程のお婆さんの部屋からナースコールが再びありました。
Aさんがそのナースコールを受けたのですが、
また用足しの手伝いをしてほしいとのことでした。
ですが、その場は手を離せない状況だったので、
後から行くからしばらく待っていて欲しい旨をお婆さんに伝え、
また慌ただしさの中に戻っていきました。
その後何度もお婆さんからナースコールがあったそうですが、
他の看護婦も手を離せないこともあって、
皆一様に「しばらくして後から行く」というように答えたそうです。

その後、とりあえず一段落したナースステーションでは、
少し落ち着いた空気が流れていました。
Aさんも少し落ち着いていたのですが、
お婆さんからのナースコールを思い出し、
急ぎ足でお婆さんの部屋に向かいました。
「お待たせ〜!」と言いながら、扉を開けて中を覗いた時でした。
廊下からもれる光に照らされたその状況に彼女は息をのみました。

お婆さんがおまるの便器に顔を埋めて床下に倒れていたのです。
慌ててAさんは電気を点け、
お婆さんの様子をうかがいました。
顔は真っ青で尿も当然漏れています。
慌てて医師を呼び、ベッドに横たえ、診察したのですが、
もう既にお婆さんの息はなかったそうです。
お婆さんは老衰だったので、
御家族にはおまるで亡くなったことは内緒になっています。
ただ、最期をおまるで迎えたお婆さんの気持ちを察すると
いたたまれないとAさんは言っていました。

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