[心当たり]
何のことはない話である。 
小学校5年生の夏休みが明けた9月1日。 
始業式も終わり、久しぶりの友達との再会に、自分はどこへ行った、何を見たなど、産話に花を咲かせていると、真っ黒に日焼けした担任の先生が教室に入ってきた。
        
「おーっ! おまえらみんな真っ黒だなぁー! 海にでもいったのか?」
        
「うん。先生も黒いけど海に行ったの?」 
「先生は、○山に行って来たんだ。だから、シャツの下は真っ白だけどな。
        
この夏は、いろいろあって大変だったんだ。」
        
「えっ? 先生、なに、なに。」 
「あ…いや、また今度な…。」 
そういって先生は、出席を取り始めた。 
それから、しばらくの間に妙な事が続いた。
        
クラスの生徒にけが人が続出したのだ。 
その数、2週間で実に18名。 
それも、全員右半身のどこかを骨折しているのだ。
        
この異常事態には、小学生といえども何かがあるのではないかと噂がはしり、当然、学級会ではこの話が議題にあがった。
        
「みんな、最近けがが多いけれども、夏休み明けでたるんでいるんじゃないか?」
        
「先生!みんなは呪いを誰かがかけたんじゃないかって言っています。」
        
「そんな、馬鹿なことを言うんじゃない。」
        
「だって、みんな右手、右足を怪我しているんですよ。」
        
「呪いや、祟りなんて……そんな…。」 
こう言うと、先生は眼を閉じて黙りこくった。
        
「………あっ!」 
突然先生はそう、言うと立ち上がり、 
「心当たりがあるから、任せなさい。」 
と言い、学級会はそこで終わった。 
その週、先生は学校を休んだ。 
翌週、私たち生徒が教室に入ると、黒板の上には一枚のお札が貼ってあった。
        
それは、先生が夏休みに行った○山にある「○山神社」のお札だった。
        
そして、 
「これで大丈夫!もう怪我はしないから安心だぞー。」
        
と一言いうと、それ以上はこの件について、何も話さなかった。
        
結果、それ以降骨折や怪我をする生徒は、ぴたりといなくなった。
        
その後、卒業してからこの話を再度先生に尋ねたが、
        
「いや、ちょっと、山で心当たりがあってな……。」
        
といって言葉を濁し、答えてはくれなかった。
        
20年以上後の同窓会で知ったことだが、先生が登った山で、前日に滑落事故があった。
        
そして翌日、手足が激しく損傷した遺体を、偶然通りがかった先生が発見した。
        
しかし、そのまま遺体を連れて下山することは出来ない。
        
仕方なく先生は、遺体をそのままして、下山後に警察に連絡したという…。