[神棚とお面]
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Kさんの家の長男は、結局再び高熱が出て死んだらしい。
それから毎年、お祭りで踊り役を務める事になった人が何故かKさんの家の長男と同じ病状となり
祭りはそのまま無期限停止となった。
そしてある日、祭りで使われていた面を倉庫から出したところ、面の顔半分が変形していた。
何かに祟られたのでは?という話になり、面を神棚へと飾ったらしい。
(ただ、飾ったのは神社であり、そんな家の神棚ではないらしいのだが…)
そのお婆さんは、面がもし手元にあるのなら神棚に戻したほうがいいと心配してくれた。
だが残念な事に、本当に面は親父が燃やしてしまったのだ。戻そうにも戻せなかった。

とてつもない絶望感が身体を襲い、それからKさんの長男の事がふと頭に浮かんだ。
もしかして、その病気で顔の半分が変形したのでは?と。
それから何度か鏡を見たりした。
人の顔は右と左では異なるとは言うけど、
ここ最近、半分が随分と変形したような気もしている。

ある日、ふと図書館にCDを借りに行ったとき(自分の村の図書館ではCDを無料でレンタルできる)
郷土資料の棚が目に留まった。
A祭りの事が載っているかもしれないと、幾つかの本を漁っていると、
確かにA祭りの事が載っていた。お婆さんが話してくれた事とほぼ合っている。
だが、祭りが今はなぜ無いのかまでは書かれてはいない。
ページの一番最後にはA祭りに関しての情報を提供してくれた方々の名前が連なっている。
その中で一番大きく書かれていた名前に見覚えがあったので、
もしや?と思い、その人の家(仮にMさんとします)に電話をしてみた。
そしてお婆さんから得た情報以上の事を知る事ができた。

A祭りは来年の豊作を願って2月から3月に掛けて行う祭りで、
お面を被った踊り子に神おろしが行われる。
なのでお面はとても神聖なもので、普段は祠に収まっている。
お婆さんが神社と言っていたのは正確には神社ではなく、田んぼの隅っこにある祠の事。
Mさんの憶測も混じるが、Kさんの息子さんが熱病で亡くなった年は、
ちょうど某企業のT社が工場を建てた年。
それに伴って田んぼを手放す人も多く、それら田んぼのあった場所は新興住宅地となった。
住宅となった田んぼの中に祠があったらしく、
面は祭りで使うので別の場所へと移動し、祠は壊されたらしい。
それが引き金か、毎年の様に踊り子が熱病で亡くなった。
それで別の田んぼに新たに祠を建てると、それは収まったらしい。
(祭りが中止になったから収まったという話もある)
Mさんが知る限りは新たに建てた祠は健在だと、その位置も教えてもらった。
仕事帰りにその祠のあった位置へと立ち寄ったのだが、
そこは住宅街のど真ん中。つい最近、田んぼだった所だった。
帰ってから親に祠があったとされる田んぼが住宅街に変わったのがいつか聞いてみたのだ。

それが丁度半年ほど前だった。
自分が嫌な夢にうなされるようになった時期と重なった。

ただ、それが解ったからといって何も解決しなかった。
面もないし祭りもないし、祠を建てる場所もない。
あいかわらず嫌な夢で目が覚めるし、顔の半分が赤く腫れ上がっている時もある。
医者にも行ったが、デキモノだと言われただけだ。
毎日会社から帰る時、以前祠のあった新興住宅街が目に入る。
その都度、「呪われればいいのに」と恨みの言葉を吐いたこともあった。

今は飽食の時代だから食べる事にはそれほど執着は無いだろう。
だが、祭りが機能していた時代は面も踊りも、それらは生きて行く事そのものだったと思う。
その思いの上に、どこからきたかわからぬ余所者が、家をどっしりとおろしている。
あの捻じ曲がった面は、その思いを踏みにじった連中への恨みではないかと思っている。

それと、これを書いてる間に解ったこととして、
祠以外にも豊作を願って建てられるっぽい石碑?みたいなのもみかけた。
だからといって腫れは引かないままだけど。


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Part208
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