[山賊]

文才無いので長くなっちゃった。
住職にはしゃべるなと言われたが、10年前の話だしいいよね?

10年前、俺が前の会社で測量士をやっていた時のこと。
携帯電話の普及で、携帯の鉄塔を建てるための測量を下請けしていたんだが、
予定地が村里の中、他の案件の納品の締切もあり、急遽、俺一人で現地に向かうことになった。
といっても山奥でもなく、地方都市に付属した一地域の集落の中の山だった。
不安になる点は、そのあたりは国土調査を業者が役所ぐるみでアンポンタンをやったらしく、
地籍測量図も公図も何もかも信用できず(各測量社から嫌われている地域)、
建設予定の字名が「盗○沢」という、なんじゃそりゃという名前だったくらいだ。

公図は無理やり旧公図(美濃紙の巻物状態)を写したらしく、まったく現地に一致しておらず、
町道もまったく公図に一致していなかったが、大体のあたりは付いており、
携帯会社の方からも現地の写真で、山のあの頂きだっつうことはわかった。
問題はそこへ行く道が全然わからないことと、
地主は東京に住んでおり、地元もよくわからないということで、
現地住民との話がまったく進んでいないようだった。

公図をよく見てみると、南北500m、東西300mくらいの規模の小さな山で、標高も50m程度、
確かに携帯の中継地には適していそうな山で、工事用の道路の確保もスグに出来そうだった。
公図と登記簿からは、全ての地番で同じ人が所有者になり、地主は一人のみ、
他に山道が交差し走っていることがわかった。
その山のふもとにある民家に登る道を聞いたところ、一様に道はないとか、
あっても大正のころの学校に向かう道の話で、要領を得ない。
何十年も山に入る人はいないのでわからないということだった。

仕方がないので公図をにらみ、山道が始まってそうなところに目星をつけ、
山裾に入ると、わずかに道らしきもの残骸、獣道の方がましそうな感じの後を見つけ、
そこを登ると公図通りに田んぼの跡地が広がっていた。
この道に間違いないだろうということでいったん作業車に戻り、
剣鉈、鉈鎌(ウナギ鉈の柄が1mもあるようなやつ、杖代わりにもなる)、
見出しテープ、GPS測量用にプラスチック杭数本、石頭ハンマーなどで重武装し、
見つけた山道を切り開きながら登り始めた。

誰も登ったことのない山という話だったが、わずかに使われているような感じの山道で、
ツタを払ってやれば問題なく登れそうである、山を切って作っている道だからかもしれない。
30mほど登ったところ、腐臭が漂ってくる。空気全部が腐臭を含んでいるかのように。
元はどこだ、何が腐っていると思いつつ(先輩は別の山で自殺者を見つけたことがある)進むと、
笹だらけの法面に祠が埋められており、強烈な腐臭が笹が生えるのを拒むがごとく、祠前だけ拓けている。
祠の正面は空いており、黒く変色したような感じの犬のミイラがこっちを睨むかのように座っていた。
それはまるで、前を通るものを見張っているような感じだった。

この段階で何かやばいと感じたが、怖いからダメというのも容認できるわけもなく、
公図に辺りをつけ「犬」と書き込み、山道を登る。

人の手が入るスギ林と違い、下草や笹が伸びており、視界が悪く場所を見失いそうになる。
山では所有者が違うと、植林した木の違いにより植生が変わるために土地の境が分かったりするものなのだが、
人の入っていないという山だけあって、まったくわからない。
かれこれ一時間は上ることになり、あれ?距離的におかしくねと思った。

遭難したかとも思ったが、場所場所に見出しテープ(ピンクで目立つ)を結び、
伐採した跡が後ろにあるので戻るのは簡単なはず、
時間がかかるのは伐採しているせいと考え、先を急ぐべく進む、
すると突然、横道がつながり十字路になった。
公図上にも十字路があるので、これかと図面とにらめっこしていると、
子供の笑い声と、囃子歌のようなものが聞こえて来た。
地元の子がいるのかと思ったが、現地の人も入らない山、というか子供には入れないような荒れ具合。
ぞっと一気に冷汗が。

引き返そうと振り返ると、来た道の方の法面の上に気配がします。
そちらに気を取られていると十字路の方から「おっさんだれじゃ?」と声をかけられた。
ビクッとした次の瞬間、気配のあったところから、
昔の百姓ような恰好の男が鉈を片手に「ヌッッガァァァ!」と飛び出してきた(俺こけた)。
男は鉈でいつの間にか見晴らしが良くなっている道にいた、
昔の格好の子供たちに切りかかり、一人が血まみれで倒れ、
他の子らは泣きながら「鬼やぁ鬼やぁ」と逃げていく、
予想外の展開で身動きできずにいると、鉈の男が何かを叫びながらこちらに切りつけてきた。
とっさに出した鉈鎌にあたり、鉈鎌を飛ばされました。
「ヤベェってヤベェってヤベェって」パニック陥って、
走って逃げようとすると、すぐ後ろを笑いながら鉈で切りかかってきているのがわかった。

ふと気付くと完全に山の中、鉈鎌はなく、どこをどう来たかもわからない。
リュックに水筒などを入れていたので、水分を補給し一心地つく。
何があったのか整理もつかないまま、現地点がどこかを確認しようとすると、
そばに頂があるようでしたので、そちらにむかいます。
町道からそれほど外れているわけはないので、高いところからなら見えると思ったから。
続く