[少年と母親]
私が小学校3年生か、4年生くらいのときの話です。 
学校が終わって帰るとき、近くの公園に寄って皆で遊ぶのが日課になっていました。 
その公園にはいつも変な子供がいて 
その子はたぶん見た目は小学校の低学年くらいだったと思うんだけど 
私たちの通う小学校には通ってなくて 
友達に聞いても、どこの子かも知らず誰も名前も知らない子でした。 
名前を聞いてもヘラヘラと笑っているだけで、泥だらけの姿で小汚く 
1人で公園のブランコに揺られていて、いつも私たちが学校の帰りに公園に行ったとき寄ってきては 
一緒に缶蹴り遊びとかをする遊びの輪に入って来ていました。 
なにかの事情で学校にも通わないかわいそうな子供という感じでしたが 
私たちの輪に入って遊ぶときはいつもニコニコ笑っていました。 
その公園の隣りには、高い塀に囲まれた縦横30m×30mくらいの敷地内に 
人の住んでいない廃屋がありました。 
ある日公園でソフトボールをしていて 
ボールがその敷地内に入ってしまったことがあり 
ジャンケンに負けた私がボールを取りに塀をよじ登って中に入ることになりました。 
塀の中は木々や雑草がボーボーに生い茂り、まるでジャングルになっていました。 
小学生の身にはジャングルに思えた敷地内の真ん中に、瓦屋根や壁がボロくなって壊れ 
人が住んでいないのは一目瞭然の和風な家が建っていました。 
私はその廃屋のわきに転がっているボールを取りに行きました。 
廃屋のわきまで行ったとき、土壁が壊れて穴の開いた所から家の中が見えました。 
中の畳の上にあの子がいました。 
その子の横には着物姿の女の人が畳の上に座っていて、髪も乱れていて 
色白で見た感じ病気で寝込んでる人のような感じに見えました。 
その子のお母さんなのかな?という風でした。 
外の私に気付いたのか、その女性が、か細い声で 
「息子がいつもお世話になっています」という感じのことを 
外の私にしゃべったような記憶が今でもかすかに残っています。 
私はなんだか怖くなってそこから出たくなり 
ボールを拾って、来たところを戻り塀をよじ登りサッと帰りましたが 
でもよく考えてみると、空き家なので勝手に入られないようになのか 
その屋敷の門のところには針金のようなものがグルグルに巻かれていて閉ざされていて 
塀をよじ登りでもしない限り、簡単には人の出入りのできない廃屋のはずでした。 
なぜそんな中にあの少年と母親がいたのか? 
そのあとすぐ夏休みに入ると学校帰りの公園に行く機会がなくなっていました。 
2学期になったとき、また学校帰りに皆で公園に行ってみると 
隣りの塀に囲まれた屋敷は、夏休みの間に取り壊されていて更地になってしまっていました。 
それ以降あの子供は公園にはピタッと現れなくなりました。