[枕元に]

実体験だからシンプルに

布団の頭側に机がある
寝ていると机の下から物凄い形相の女がぬーって出て来て
耳元で唸り声を上げ始めた

あ"あ"あ"あ"っていう声から段々ボリュームが上がって
仕舞にはギャリギャリってノイズのような音になる
普通ならここら一帯の人間がみんな起き出してくるような爆音で
鼓膜が破れるかと思った

表情に意思を感じない殺気と敵意の塊みたいな奴で
ぶっ殺すぞゴラァっとか怒鳴っても帰らないから
こいつ面倒臭いなぁと思ってたら消えたんだったと思う
また寝るまでしばらく頭がガンガンしてたけど



最近本で読んだデュラハンが訪ねてきた時の
「世界中の皿が一斉に割れたような音」
という表現がとてもマッチしていて
夢にしろ現にしろ
そういうものなのか〜と妙に納得している

そういや俺も枕元に何かが来たなぁ
たぶん女の人なんだが、顔に髪がバサーっとかかってて表情が見えない
よく言われてるような、なんつーの?死に装束?それだよ、それ着てんだ

夢を見る時ってのは決まって眠りが浅い時だって言うが、確かにそんな感じはしてた
明晰夢っていうのとはちょっと違う感じで、寝てるには寝てるんだけど
「あ、今すごく眠りが浅い」ってことに気付きながら眠ってる感じ
いつでも自力で目覚められるって自覚しながら寝ている状態なんだよ
そしてそんな眠りの時は、まるで幽体離脱でもしてるかのように第三者視点

そんな状態で、朝日が部屋に入り込んできたら起きるかな、なんて考えてると
急に第三者視点だったのが俺の視点に戻ってきた
戻ってきたというより、押し込まれたといった感じだった
そして例のごとく、突然金縛りに襲われる
次の瞬間、スッと寝室のドアが開いて誰かが入ってくるのがわかった
俺は一人暮らしだし、誰かが入ってくるなんてのは通常有り得ないこと
金縛りも併せて考えりゃ誰が入ってきたのかなんて明白だ
ついでに俺の顔は蒼白だったに違いない

一応は夢の中(と思われる)だし、周りが若干霞がかっていた
だから死に装束で顔が髪に隠れた女ってとこまでしかわからなかった
金縛りに遭いながらも、必死に女の動きを追う
女は俺の枕元に正座したかと思うと、突然土下座した
まったく意味がわからない…なんなんだコイツは…

女はゆっくりと顔を上げ、再び土下座する
そしてまた顔を上げて土下座、土下座、土下座、土下座
土下座の速度が段々早くなり、とうとうダン!ダン!と頭を打ち付け始めた
その速度が尋常ではなく、動作の所々が省略されているような…

一言で言えば、それはもはや人の動きじゃなかった
人…ではないんだろうけども、そういう意味でなく
もう地面に額打ち付けて顔上げて、なんてしたら当然あるはずの慣性が存在しない
そしてうるせー!とにかくダン!ダン!とうるせーんだコイツ

物凄く怖い気持ちもあったが、俺は「うるせぇ!うあぁぁ」と叫んでいた
寝言を聴いたことのある方はわかるだろうが、すんごく情けない声だ
次の瞬間、女は消えていった…いや、もうホントなにしに来たんだよ…


次の話

Part204
top