[田辺君と俺]
僕が小学校3年の時、田辺君という子と仲が良かった 
田辺君はユリゲラーの真似だ!と言って目の前でスプーンをグニャリ曲げた 
僕はスプーンをもとに戻そうとしたけど固くてダメだった 
その手品のタネ教えてよと頼んだけど、田辺君は教えてくれなかった 
夏休みが終わり学校に登校してみると、田辺君の席がなかった 
クラスメートがチラチラ僕を見てた 
担任が出席を取った時、田辺君の名前を呼ばなかった 
田辺君は転校したのか?と僕は思った 
担任もクラスメートもなぜ田辺君について何も言わないのだろうと不思議に思った 
その時、担任が僕の名前を呼んだ、前に出てこいと言ったんだよ 
クラスメートたちがさらにチラチラ僕を見てた 
誰も田辺君なんか知らないと言ってた 
教室の中に知らないヤツが堂々と座ってたので 
みんな気味が悪いからチラチラ見てたんだって 
知らないヤツとは僕のことさ 
自己紹介する前に席に座ってる僕を見て担任は 
なんて神経の太い子だろうと驚いてたんだって 
僕にはみんなで勉強した1学期の記憶がある 
その中には当然、田辺君とすごした記憶が鮮明にある 
でも先生やクラスメートの1学期の記憶の中には 
田辺君と僕は存在しない