[Uの憂鬱]
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が、Uは「寄っていけ」とあくまでしつこく誘う。
くだんのA公園には車で30分もあれば余裕で着くので、「それなら……」と、
押される形でUの家に上がることになった。

Sは強引に誘われたことに不満げで、部屋に入ってもまだぶすっとしている。
Uはと言えば、突然元気を取り戻したように傍目にも言動が明るい。

ジュースと酒を用意して、全員席についたところで、Uが真面目な顔をして、
奇妙なことを言い出した。

「こんなことを言うのはどうかと思うけど、あの車、早く手放した方がいいよ」

当然、Sも俺も「???」となった。
ややあって、Sが「なんで?」と言った。
Uは言うのを少し躊躇ったようだったが、意を決したように、

「あの車、人を殺してるよ」

と、とんでもないことを言った。
Sはぽかんとしていた。
俺は一瞬なにを言われたかわからず、続いて、「えっ!?」とショックを受けた。
しかも、Sまでとんでもないことを言い出した。

「な、なんであの車が中古の事故車両だって知ってんの?」

その時の僕の驚愕はわかっていただけると思う。正直、
「おおおおおおおおおおおい!!11!」と言う感じだった。

Sは知り合いの伝手をたどって、
新車同然の車をかなり安い値段で手に入れたのだった。
どうやら前の持ち主が死亡事故を起こしたらしい。
横断歩道を渡っている子供に突っ込んではねたのだ。
Sは「安ければいいよ!」と大して気にしなかったらしい。

それをなぜUが知っているのか、それよりも、そんな車を平気で乗り回し、
なおかつ、僕とUを乗せたSが恐ろしかったのを覚えている。

Uはいわゆる「見える人」であるらしく、
Sの家に近づくにつれて嫌な感じがしていたそうだ。
車を見てヤバイと思ったものの、帰るとは言い出せず、しかも車に乗ったら
もっと具合が悪くなってくる。
これはまずいと、引き返させたらしい。

Sはなぜか感心したようで、すげえなあと感嘆している。こいつの感性はおかしい。

Sは「車を早いところ手放さないと、ひどい事故を起こすかもしれない」と警告され、
さすがに車を手放すことを考えたようだった。
いくら怖いもの知らずとは言え、自分が怪我をする程度ならともかく、
人身事故でも起こしてはたまらないと思ったのだろう。

僕はUに、「と言うことは、Uには、車になにかがいるのが見えたのか?」と尋ねた。
Uは口をつぐんで、「別に」と言ったが、なんだか怪しい感じだったので、
さらに尋ねると、やっと彼はこう言った。

「フロントガラスに、血だらけの子供の顔が張り付いて、逆さに覗きこんでたよ」

書き忘れていたのですが、交通安全のお守りを紛失したそうです。
車内にあったはずなのに、忽然と消えていて見つからなかったとか。
(まぁSは相当うっかりな奴なので、見落としている可能性もありますが)

それから、Uは車内で眠っていたのではなく、気絶していたようです。
恐怖と気分の悪さで意識を失ったと言っていました。


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