[棺桶]


友達のN君は小学生の時、祖父を亡くした。
N君の祖父は永らく老人ホームに入っていた為、祖父
と会うのはお正月くらいであり、祖父が死んだ時もそ
う悲しくはなかったと話した。
つまらないお葬式で、唯一面白かったのは日常では見
かけない遺体があるという位で、暇になったら祖父の
死顔を観察しに行ったという。
祖父は棺桶に入れられて直接触る事は出来ないが、覗
き窓から死顔を覗く事は出来た。
真っ白な死装飾を着て、菊の花が顔の周りに添えられ
て、白い布が胸元まで掛けられているのだ。
通夜の時、大人達の会話がつまらなくなったので、
じーさんの死顔でも見に行こうと思って見に行った。
少し怖かったが、「所詮じーさん。化けて出ても怖く
ない」と自分に言い聞かせ、一人肝試し気分になって
いた。
わいわいと騒ぐ大人達を背に、棺桶の覘き窓から覘く


そこには先ほど述べた光景があるだけであり、そう楽
しくはなく、面白いのはじーさんの鼻の綿だけだ。
ぼんやり眺めていたら、唐突に異変が起きたという。
祖父に掛けられている白い布が、もこもこ、と動い
た。
びっくりしたが、見間違いかと思ってよく見直した。
布はしばらく動かなかったが、また、もこもこと生き
物が下で這っているかのように動いたのだ。
驚きはしたものの、N君はなぜか無言で見続けた。
そして、さらに怪奇な事が起こった。
異様に細長く、白い指。
それが布の下から胸元にかけて一本、にゅ、と突き出
した。
指はどんどん伸びて祖父の頬に赤い引っかき傷を作
り、また布の下に戻ったという。
「大騒ぎになったよ」とN君は言った。
葬式の業者が遺体に傷をつけたと遺族一同カンカンに
なったそうだ。
なんでその事親とかに言わなかったのと、N君に聞い
た。
N君曰く、人に喋ったら絶対ヤバイ事が起きそうと本
能的に思った。だそうだ。
この話を書くあたり、N君に一応断ってから書こうと
思ったが、N君の携帯にメールも電話も繋がらず、N
君の実家の固定電話さえ繋がらない。
なので無断で書かせて貰うことにする。
N君には昔小説のアイディアをパクられたので、これ
でおあいこだろう。


次の話

Part200-2
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