[ビジョン]

俺は居酒屋で働きだして二年になるフリーター。 バイト先は地下に有る。

働き始めは余裕が無く、周りを観察したり等は出来ず、ただただ仕事をなんとかこなすだけだった。

やがて余裕が出来、バイト仲間と色々話すようになった。

くだらない話しをしている内に、なんとなく怖い話しになって行き、この店の怖い話しになった。

この店は出るって有名だよ と、ベテランのホールスタッフ(♀)が言っていた。

零感な俺は 「お、もしやしたら心霊体験できんじゃね?ww」 と、軽く考えていた。



そんな話しをしたのも忘れかけた頃、調理場にKさん(♀三十路)が新人としてやって来た。
このおばさんがバリバリ見える人だった。

俺はKさんからオカルトの類の話しを、暇になる度せがんで聞いていた。

Kさんは、前に住んでいた家で霊障に悩まされていたらしい。

以下Kさん談

前の家での事。
ある日の夜、寝ようと思い布団に入り瞼を閉じたのよ。
その日に限って中々寝付けなくてね。 でも、次の日も早いから寝る努力をしていたの。

そしたらね、頭の中にね、外から見た私の家の外観が浮かんだの。
私、当時はよくわからなくてねー。 気楽なモンで、「あぁ、壁に皹入ってるわー」とか思って見てたの。

頭の中の映像は玄関の鍵を開け、Kさんの寝室へ続く階段を上がっている様子が流れている。

この時、Kさんは「何かヤバイ」と感じていたらしい。

で、頭の中に流れる映像はついにKさんの寝室のドアを開け、布団に包まっているKさんを映し出した。

同時にKさんは見たらしい。長身で、全身真っ黒の「人の様な何か」を。

頭の中の映像は「人の様な何か」の視点から見ている映像だと、金縛りになりながら気付いた。


Kさんはその日を境に霊感が身につき、そして、自己防衛の為にオカルトに傾倒していった。

当時Kさんはラーメン屋を経営していて、常連の客(バリバリ霊感有り)からオカルトな話しを聞かされていたらしい。

「Kさん、霊感が有る俺とほぼ毎日会ってるから、
もしかしたらKさんも俺の影響を受けて見える人になっちゃうかもよ。」

と言われたが、大して気にしていなかったらしい。 第一、二十歳になるまで霊を見ない人は、
一生「見える人」にはならないと聞いていたし。


甘かったわ。 と、俺が買ってきた差し入れの珈琲を飲みながらコールドテーブルに腰を下ろした。

Kさんは引っ越すまで寝ようとする度に映像が浮かび、
寝室にソイツが入って来たら必ず金縛りに遭う と言う生活を送っていた。

勿論Kさんは金縛りを避ける為、映像が流れ始めたら逃げようとしたらしいが、
布団から出る前にソイツはKさんが居る寝室に物凄い早さで到達してしまう。

近寄れないようにと、盛り塩をしたは良いが、翌朝見ると盛り塩は爆発していた。


ソイツとの攻防が続き、やがてKさんは疲れからか体を壊してしまう。
ラーメン屋も経営が苦しくなり、Kさんは店を閉めた。

そのため常連の客に対策を聞けずにKさんは逃げるようにその街を出て、
俺がバイトしている居酒屋が有る街に引っ越して来た。

安いアパートに引っ越してからは、今までが嘘のように金縛りに遭う事もなくなり、昔のように普通に眠れるようになった。

それから体調も徐々に回復していったそうだ。


今住んでる家の方が何か出そうなんだけどね。 と、軽く笑い、話しを続けた。

また遭ったら嫌だな、と思ったKさんは友人(霊感有り)に相談をした。

友人が言うには 「霊を認識しなければ良い。認識しなければ見えなくなるわよ。」 と言われ、
霊なんて居ないし、居る訳無い。 と、今も考えるようにしている。

すると今まで表情までハッキリ見えていたのが、ぼやけて目を凝らさなければハッキリ見えなくなったらしい。

友人の助言通りにして正解だったわ。 そう言って新規の客の料理オーダーを作り出した。

俺はコールドテーブルに腰を下ろし、煙草に火を着けて吸い、鍋を振るKさんを眺めていた。



煙を吐きながら「霊感持ちも色々大変なんだなー」と、考えていた。


次の話

Part199
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