[幸福の壺]
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まぶしい光に彼は目を細めながら起き上がりました、昨夜の遭難に雨 そしてトンネルの事をぼんやり思い出しながら外に出ました。
木々の隙間から漏れる光、快晴です。 よかった、とりあえず麓まで降りよう。 そして少し先に開けた場所があるのを発見し進みました。
森から抜け出し草原に出た彼は、その時の感覚を「あの時背中に走った悪寒はヤバかった。 脊髄が氷柱に変わったかと思った・・・」そう語りました。
彼が見たのは墓 墓 墓 墓墓 墓墓墓墓墓 草原のあちこちに倒れ積み重なり そして草からのぞく墓墓 墓石の大集団
ほとんどの文字は苔に覆われ 欠けていましたが、それは確かに墓だったといいます。 しかもその数は尋常じゃなかったそうです。
草原かと思ったのは墓の隙間から生えた草でその一面・・・そう、彼が立っている地面そのものが墓石の山だったそうです。
これほどの死者・・・疫病か?村同士の抗争か? この山にも昔、村が点々とあったことはだけは知っているが・・・しかし、考えずらい
あまりにも多い、村1つ全員・・・どころじゃ・・・ない、この山1つ・・・いや、この地方一帯の人間が死ななければ、これほどの数にならないんじゃないか・・・?
恐る恐る墓石の文字を覗き込む、時代はどれも大体同じ時代のものが書かれていた。 ちょうど日本で言えば幕末〜明治初期に集中しているらしかった。
そしてもう1つ、欠けた墓石の文字をたどっていくと・・・彼は気づいてしまった

女性と・・・子供しかいない・・・

名前はほとんどが女性の名前、男性の名前もあったが刻まれた年齢はどれも幼く・・・ソレを物語っていた。
これだけの女と子供が? この時代は確かに村と村 地域と地域 国と国の争いがあちこちであり、疫病も度々あった時代だ
しかしそれなら成人男性の名前も刻まれるんじゃないのか? 男たちが出稼ぎや徴兵で出て行った後、残された女や子供が疫病で亡くなったのだろうか?
恐怖は徐々に好奇心に変わっていった。 ここで・・・ここいらの地域で何が起こったのか・・・彼は調べることにした

まずは地域の資料を漁ってみた、図書館や役所にも足を運んだがコレといった情報は得られなかった
そもそも今でも地方の山の奥で何があったかなんて日本ですら分かってない事が多いのに、管理能力がアレな国だ
今現在でも、住民票すらない山奥の人なんて数万人もいるんだ、分からなくて当然なんだよな。 彼は苦笑した。
そこで先日の村に再度話を聞きに行った、その村の人は確かにあのトンネルと墓の山の存在は知っていたのだが、
比較的新しい村だったため、情報は少なかったが「昔、かなり良くないことが起こったらしいが詳細はわからない」村一番の年寄りもこう語るのみだった。

あの時代、この地域の生き残り・・・は、さすがにいないだろうけど、もしかしたらどこか移住した部族がいるかもしれない
様々な資料を調べ 聞き込みを続けると ある重要な手がかりを見つけた。 あの山一帯の者の一部は今のロシアに移住しているとのこと。

「ロ・・・ロシア? はぁ・・・お手上げじゃん」 私はため息をついたが、彼は薄気味悪い笑みを浮かべて続けた
「いや、ロシアまで行ったぜ・・・さすがにロシア語わからなかったから辞典片手にな」 アホだコイツ・・・私はすっかり冷めたヤキトリを頬張った
「んで、ロシアで見つかったのかよ? 墓場山の住民は」
「あぁ、見つかった 俺ってハイパーラッキーだ・・・まあ、1年かかったけどな」
「マジかよ・・・」
「ああ、しかも絶対に話さないと超ガンコジジイでな、交渉に交渉重ねて聞き出すのにさらに1年かかった」
「・・・はぁアホだなぁ・・・」私はため息をついた

バカみたいに寒いロシアの田舎町に、その老人の家はあった。 老人は確かに朝鮮人の顔立ちをしていたという。
ただ、生まれも育ちもロシアだというのだから、老人が語ったのは父の祖父・・・つまりヒイヒイおじいちゃんの話だ。
その老人も90代というのだから、確かに時代は合っているようである。
老人はしわが垂れてわずかに開いた瞳で彼を見据えて、ゆっくりと話し出した。 

続く