[確執]
学生時代、とある地方都市で下宿生活をしていた俺は、
クラブのボーイのアルバイトをしていました。
そのクラブの客層は中小企業のお偉いさんが中心で、接待とかに良く使われていました。
店のトップには親会社があって、その下にマスターがいて、ママ、チーママ、その他ホステスといった感じで、
女の子の中ではチーママが特に仕事が出来、お客さんからの人気も高かったんです。
俺はホステスさんや常連さんにも気に入られ、
出勤するとホステスさんから弁当をもらったり、
お客さんからはおひねりを頂いたり、席に呼ばれたり、楽しくバイトしてました。
でもやっぱり女の世界でした。
嫌な客をあいつに押し付けられただとか、あいつに枕営業をされて客を取られただの、
ホステス同士のいざこざは良くありました。
中でも多かったのはママが特定のホステスを贔屓していて、
いいお客さんにつけたり、出勤時間や同伴手当てをオマケしている。
といったママへの苦情でした。
ママとその取り巻き 対 ホステスという構図が自然に出来上がり、
この対立の間で、チーママはママとホステスの板ばさみになってしまいました。
ママには自分に反抗しているホステスを束ねていると思われて毎日いじめられ、
ホステスからはチーママがしっかりしてないからこうなった等と言われ、
チーママは次第に精神的に追い詰められてしまっていました。
マスターが相談に乗っていましたが、チーママはアルコールに依存するようになり、
酔って出勤して接客中に寝たり、待機中なのに店の酒を勝手に飲んだりするようになりました。
仕事が良く出来たチーママの面影はありませんでした。
それらの事が親会社咎められ、チーママはホステスに降格してしまい、出勤日数も減らされ、
店での飲酒も禁止となりました。
ある日の事です。
俺が出勤するともう二階に誰かいるようでした。
店の鍵を開けるのはボーイの役目なのですが、
もうすでに鍵は開いていました。
マスターが二階で店舗業務をしているんだろうと思い、気にしませんでした。
いつものように届いた酒を二階にある倉庫に持って行こうと思い、
二階にいるであろうマスターに挨拶をしながら階段を上ったんですが、
返事がありません。
まぁいいかと思い、倉庫の中へ入って行くと、
とんでもない状態でした。
倉庫内にはビールや焼酎の空き瓶が散乱し、
チーママが隅の方で頭から血を流して体を痙攣させながらうずくまっていました。
俺はあまりの光景に気が動転してしまい、
階段を転げるように下りてすぐに救急車を呼びました。
幸い命に別状は無く、出血も大事には至らなかったようです。
マスターから事情を聞くと、どうやら彼女はアルコール依存症が
同居している家族にバレて、家でも酒が飲めなくなり、
閉店後に店に忍び込んで酒を飲んでいたようです。
そして酔っ払ってふらついて頭をぶつけて出血し、
それでも這いつくばって酒を飲んでいたみたいなのです。
チーママはアルコール依存のため、そのまま入院し、一週間が過ぎました。
俺はいつものように出勤して、一通り雑用をこなし、
これまた二階にあるロッカールームの掃除をしていました。
すると背後のロッカーがキィと音を立てて開きました。
驚いて振り返るとそれはチーママのロッカー。
何か嫌な予感がしてロッカールームから出ようとすると、
今度はジャラジャラとチーママが愛用していたドレスがロッカーから落ちました。
俺は怖くなって立ち尽くしていましたが、
一階の電話が鳴っていたので我に返り、電話を取りに行きました。
電話はマスターからでした。
なんとチーママがアルコールによる急性肝炎で亡くなったという知らせでした。
俺は受話器を持ったまま怖くてガクガク震えていました。
パニックになってしまい、チーママのロッカーが!とかドレスが!とか口走って、
店の外に飛び出しました。
すぐにマスターが来てくれて、何とか落ち着きを取り戻しました。
お店が休みになり、マスターはまだ怖がっている俺と一緒にいてくれました。
その際、
「チーママは散々ママにいじめられたからな。怨みは深いぞ」
ポツリとマスターが言っていました。
十日ほどたったある日。
開店前にママが一人で店の階段を上っていると、
階段から頭から落ちて、病院に運ばれてそのまま亡くなりました。
ママが階段から落ちたときには、ママは一人でした。
ただ俺も含めて店の誰もがママの
「ちょっと!やめてよ!髪引っ張らないで!あー‥」
という声を聞きました。
その時、ママは誰も手を付けなかったチーママの遺品を整理しようと
二階に上って行ったそうです。