[狂気]

自分としては死ぬほど洒落にならなかった話。
幽霊とかは出てきませんが。


私の父は不動産屋を経営していたのだけれど、私が小1くらいの頃はピークに
景気が悪かったようで、子供の私の目から見ても父は憔悴しきっていた。

そんなある日の夕方、私が居間でテレビを見ていると、玄関でガタガタッ!!という
音がして、中年の女性のものすごいわめき声が聞こえてきた。

びっくりして玄関に出てみると、包丁をもったおばさんがわめきちらしていて、
父は一生懸命とりなしていた。
「あんたのせいで私はめちゃくちゃになった!!!」
「あんたの家族を皆殺しにして私も死ぬ!!!」
おばさんは本で読んだ山姥のようで、目は血走っていて髪もぐちゃぐちゃで、この世の人じゃない感じだった。

あまりのおばさんの形相に私は泣いてしまい、私に気がついたおばさんは
「お前が娘か!!あんたの親父のせいでわたしは○×△○〜〜〜〜(まったく聞き取れない)」
父「あっちいってろ!!!」

私はすぐ居間に逃げて、騒ぎがおさまるのをじっと待った。そのうちわめき声が聞こえなくなって、
もう大丈夫かな…と思い安心した私は、顔を洗おうと洗面所に向かった。

顔を洗ってタオルで顔を拭こうとした時、ふっと人の気配がした。
タオルで顔を拭いて鏡を見ると

おばさんが私の後ろに立っていた。


驚きと恐怖のあまり声も出せず身動きひとつとれなかった私に、

「あんた、よく見るとかわいい顔してるじゃない。でも、いざとなったら
あんたにも死んでもらうからね。」

と呟き、包丁を握り締めていた。

私はあの時のおばさんの顔を、声を、一生忘れないと思います。
おばさんはその後帰っていったが、ほんとしばらくトラウマでした。
どうも父の仕事関係の話で揉めていたようで、おばさんは不動産で大損したらしく、父を殺そうとやってきたらしい。

幽霊よりも、やっぱり人間が怖いです…。


おばさんは普通に玄関から洗面所へ来たようでした。
玄関から洗面所は目と鼻の先で、おばさんは私の顔を確認したくて来たんだと思います。


父はその時何をしていたかというと、おばさんが包丁を持って私の所へ行ったのを普通に見ていました。

多分おばさんが表面上落ち着いていたので、私には何もしないと思ったのでしょう。


ちなみに父は、アル中の叔父と小学生の私を二人っきりにしたりするなど、皆さんの想像の遥か斜め上をいく危機管理能力ゼロの香ばしい人なので、


皆さんから尋ねられるまで、父がその時何をしていたかなんて考えもしませんでした。


次の話

Part197-2
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