[見える人見えない人]


本気で心配になって来た俺はBを無理矢理引き連れてカラオケの場を中抜けした。
「係長…すんません、ちょっとヤバイかもしれないです。なんか会社にいるみたいで」
「とりあえず行った方がいいんじゃないか?あの子追い込まれると結構弱いぞ」
俺は急に寒気がしてA子がリストカットでもしてるんじゃないかと心配になった。
何か修羅場的な感じで若干興奮してたのかもしれんが、とにかくタクシーを捕まえてBと一緒に会社に向かった。
道中、「最近の若い子は何をするかわからん」とわけのわからん事をほざきながら
もし首でも吊ってたら課長にどう説明しようなどとリーマン丸出しの考えを張り巡らせる俺だったがBは終始無言だった。
会社について守衛のおっさんに訳を話したが守衛のおっさんは女の子なんか見て無いと言う。
とにかく俺は微妙な係長権限で守衛のおっさんとBを引き連れてうちの部署に走った。


扉を開けるとA子が尋常じゃ無いぐらい震えて立っていた。
「おいA子、お前こんな時間に会社で何してんだ?」
問いかける俺に対してA子は泣きながら「わかりません」とだけ答えた。
茫然と立ち尽くしているとBが「なにしてんねん、もうええやろ。カラオケ行こうや」と急にA子に話し掛けた。
A子は「ここから出れない、無理!ほんと無理!」とばかでかい声で叫び出した。
「見えてるもん!!いるもん!!私の足引っ張って、連れて行くってずっと言ってる!!」
もうほとんど狂乱状態で叫びつづけるA子に俺失禁寸前。守衛のおっさん唖然、茫然。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ぃ〜!!!!!!!!!!!!」

もうねオカルト、初めて見たよ人が壊れる瞬間。
「わかっとるはボケ」
Bがまた急に口を開いた。
ん?何言ってるのこの子は?わかってる?何が?
「係長心経唱えられます?」
ん?俺?シンキョウ?般若心境?無理、無理、何言ってるのこの子?
「いや、無理っす」
何故か微妙な敬語で答える俺。
守衛のおっさんが急に「真言宗でもええか!?」と興奮気味に言いだした。
「上出来」そう言うとBはつかつかと泣き叫ぶA子によって行くと抱きしめて
「わかってる、わかってる。
 見えへんと思い込ませた方が、思い込みで見えてると思わせた方が良いと思ったんや、ごめんな」

と言うとブツブツと呪文のような物を唱え始めた。
その間ずっと守衛のおっさんはお経を唱えてた。
しばらくしてBが「もう大丈夫」と言うとA子がワーワー泣き崩れた。
パニック通り越してドッキリを仕掛けられてると思う事にした俺はただ立ち尽くしていた。
Bは「また、きちんとご説明します」と言うとA子を抱えて出て行った。
俺は急いで後を追いかけて、タクシー呼んでBとA子を乗せて見送った。


守衛のおっさんはボソっと
「たまにあるんだよね。ここ(会社)多いからさ、そういうの。
 どっかでとりつかれたんだろうなあの子」
そういうとさっさと引っこんでしまった。
なんか目の前で起こった事を理解出来ずに俺は一人歩いて帰宅した。

後から聞いた話しだがBはいわゆる見える人でA子は行方知らずの水子が二人程いたらしい。
その関係かしらんが子供の霊にとりつかれてしまっていてBはわかっていたが
基本的に浄霊する様な力は無いのでA子が気にしない様に仕向けたが
A子自身が水子の事を深く思い出してしまったので、完全にやばい状態になったと。
たまたまあの時はうまく行っただけとの事らしい。
Bは人の厄を被って人を護る家計の出らしく、今回も恐らくそういった関係でA子と引き合わされたのだろうと言っていた。

しかしA子の事を本気で好きになってしまったので、A子の人生や悪事を心の底から許す事が出来ず
ここまで事態が悪化した。恐らく本当に助ける事は出来ないと思うと語った。
しばらくしてBは急に退社した。A子はBが退社してからうつ病にかかり結局退社してしまった。
その後は音沙汰無いが、マジで怖かったしどうにも後味が悪い…あの二人はどうしているのかわからない。


次の話

Part197-2
top