[手]
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それから5年後ぐらい絶ちまして、
Aちゃんと自分はもうそれほど一緒に遊ぶことは無くなっていました。
お互いに性別を意識し始めたからでしょうか。ただ好きとかの感情ではなく、
男と女が一緒に遊ぶのは変という理由だったと思います。
自分は遠く離れているクラスメート達の家にいって遊んだりしていました。

その頃、クラスでは心霊だとかこっくりさんだとかオカルトブームとなっていて、
学校の七不思議や、心霊スポットなど、色々と向かっている連中もいました。

連中の一人曰く、ある農家の納屋に、置き去りにされている作業用手袋があり、
その中に中身が入っているという話をしていました。まぁ、バリエーションは幾つかあります。
手袋の中に手が入っているのが見えた人が死ぬとか、不幸になるとか、
ある特定の時間になると手が入っているとか、ただ、この話の成り立ちが
お婆さんが農業用機械に巻き込まれて死んだというのが基点にある事は誰もが知っていました。
つまり、納屋とは死んだお婆さんの家にあるのです。

すいません、ここから先の話は自分の記憶がかなり曖昧な部分で、
なんとか思い出しきった部分です。なんでそうなったのかは解りません。
かなり支離滅裂というか、つじつまが合わない部分はご了承ください。

その心霊スポットに向かうという計画にのり、私はクラスのみんなと一緒にそこへ向かいました。
肝がすわった大人じゃありませんから、学校の帰り、まだ明るいうちに行ったと思います。

お婆さんの家の納屋はその時もお爺さんが使っていましたから、
落ちている手袋がいつまでも片付けられないのも不思議な話です(今考えれば)
道路から見えるその納屋の中には、昔からそこにあったかのように、手袋が落ちているのです。
指はこっちむき。なので、背後に回らなければ中身が入っているかは解りません。

で、自分と友達の二人が中身を確めるために、手袋の背後へ。

そこまで記憶はあるのですが、それからは病院に居たという記憶しかありません。
なんでも私が手袋を見に行ったときに、叫びながら道路に飛び出したそうで、
そこで車に引かれたという話です。まぁ足の太ももを12針ぐらい縫う怪我で済みましたけど、
多分、叫んだ内容はこうでしょう。

「中身がある」

それから、Aちゃんとこの事を話しました。
もう1年ぐらい口をきいていなかったと思います。
でもAちゃんは昔と同じ様に黙って私の話を聞いていた記憶があります。
Aちゃんは人間関係を細かく意識しない性格で、多分20年ぐらい口を聞かなくても、
20年前と同じ感じで話をしたと思います。

そのAちゃんは黙って話を聞いた後に、
お婆さんの手ならまだ持っていると言い始めました。
見慣れた、懐かしい木箱を取り出してきて、この中にあると言うのです。
見せて欲しいと言いましたが断られました。まぁ当然だと思います。
手が無くなった時に私と私の家族は全員Aちゃんに疑われたのですから…。

すいません、この話はここで終わりです。
私が体験したものをそのまま書いただけなので、オチもありません。
ただ、私にとっては、あの手だけは心の中から退けたい記憶です。
ホラー映画などは頻繁にみますけど、どんなにグロい印象があっても、
その手だけは常に頭の片隅に残っているのです。


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