[ハコマワシ]
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Sさんは全部見通したみたいな目で一言「なまぐさもの食べたでしょ」と言った。
俺はその時まで、なまぐさものを禁止されたのをすっかり忘れていて、あっ…という顔をしたら、Sさんは呆れたように溜息をついた。
「経血や髪や、人間のからだの一部を仕込んだ人形っていうのは必ず何かおかしなものがとりつくものなんです。
なまぐさものを禁じたり日本酒を勧めたのは、そういうものから体を守る為なんです。」
 俺はようやく今回の事の恐ろしさに気付いて、夢の事も全部Sさんに話して助けを求めた。
Sさんは「とにかくこれからは、私の言うことを必ず守ってください。
病院食で魚やお肉が出た場合は、食べた後に必ず塩を指につまんで、喉から胸までなぞってください。
お酒は無理でしょうから、その代わりに水や利尿効果のあるものをできるだけ沢山飲んで、体の中を綺麗に保ってください」と、わざわざ紙にメモまでして渡してくれた。
それから俺に、「ちょっと体を起こしてもらえますか」というので、点滴をずらしながら体を起こすと、Sさんは俺の頭に触って、髪の毛の中から短い赤いへんなものを取った。
赤い毛糸の、千切れてぐちゃぐちゃになったものだった。
「いいですか、…これから先、彼女のことを深く考えたり、憎んだりという感情は持たないでください」
さらに、「これを言ってしまうと彼女を忘れようにも忘れられなくなってしまいそうだから言いたくなかったんですが、」と付け加えて、
「本当に恐ろしいのは、この手編みのマフラーなんです。今後、あらゆる場所で赤い毛糸があなたを監視してます。
あなたが彼女を憎らしく思う度に、赤いマフラーで首を締められる夢が続くはずです。
多分送った本人も思わぬ事だっただろうと思いますが、あのまじないよりも恐いのは、貴方に対する愛情やうらみつらみを込めて作られたこういうものなんです」
青くなった俺に、Sさんは更に続けた。
「もし部屋に、別れた他の女性からの贈り物があったら処分してください…手作りのものは言語道断、…既製品でもできるだけ。
…贈られたものには必ず思いとかが篭もってます、赤いマフラーに助長されますから。」
 
退院した後、俺は即効で元カノたちからの贈り物を処分したのだが、贈られたコップとか小物入れの中に、全部赤い毛糸が入ってた。毛糸が入ってたというか、赤いホコリみたいなのが付いていた。
毛糸をほぐすとあんな感じになると思う。
クッションのわたの中やぬいぐるみの中にも赤っぽいホコリが入ってた。
気持ち悪くて、部屋の中を隅々まで大掃除したんだが、それからも例の彼女のことばかりいつも頭に残って、よく首を締められる夢を見た。
その後、3ヶ月くらい前に寝不足で軽い鬱状態になって、医者から安定剤を貰ってからは、彼女を憎みそうになる度にそれを飲んでさっさと寝てしまうことにしている。
あれ以来女性のことが恐くて恐くてしょうがなく、付き合っていた彼女には正直に話して、バッカじゃねーのと罵られながら破局した。

Sさんには、あの夢を見ると時々連絡をしている。
時々お清めした清酒を持って来てくれたりして、こんな俺に親身になってくれている。
なまぐさものは退院から二週間後に解禁された。
ワラ人形についていたものは入院中にもっと弱った他の誰かの所へ行ってしまったそうだ…が、俺は怖くて未だに肉や魚を食べたいとは思わない。

今のところ例の彼女から新しいまじないの贈り物は来ないが、例の彼女を知る友人が話すには、最近彼女はおかしな事や、奇妙な言動ばかりで怖い、との事だった。


もうすこし続きがあるんだが、とりあえずここで終わらせておく。
長くてしかも文才無くて本当にすまなかった。読んでくれた奴、付き合いありがとう。
恋人からの贈り物には気をつけろ。


次の話

Part196-2
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