[逆吸血鬼と下水処理場跡]
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俺は油を差し忘れた機械のように後ろを振り返る。
正人がスネ夫と同じくらい真っ青な顔をしていた。
「自分もはじめは勘違いかと思ってた。勘違いかと思ってたんだけど、スネ夫も見たのならあれは勘違いじゃなかったんだ・・・・・だって」
水が右手を形づくって水面から出てきてたんだよ
「・・・・・・」
それは初耳だった。
少なくとも、
え?でも俺はそんなの見てないぞ・・・・・・
何だよ?皆で俺をびびらせやがって!
もう騙されないぞ、そんなのあるわけねえよ。
ここはただの下水処理場なんだからな。
いい加減にしないと怒るぞ。
絶対確かめになんか行くもんか!!
俺はそう思ってた。
「え?でも俺は・・・・」
そう口に出そうとして
ゴボン
という音、たとえるなら水の底から巨大な気泡が上がって表面で弾けたかのようなそんな音が聞こえた。
建物の廊下の先、例の地下室への入り口から。
「・・・・・・」
聞き違いようがない。
全員が一斉に振り向いたのだから。
俺たちは顔を見合わせて、その後全速力で下水処理場から脱出した。
嘘から出た真、瓢箪から駒、そういう印象があった出来事。
本当にそんな噂なんて存在してなかったはずなのに、本当になったせいであっという間に広がった。
それ以来、しばらくの間小学生の間ではその地下室の場所を突き止めることが流行になった。
ところが、自分たち以外であの部屋を見つけた人は未だに居ない。
代わりに新しい噂が次々と生まれた。
曰く、下水処理場にいた番犬の霊が生前と変わらないまま下水処理場を守っているとか、右腕が本体を求めて夜な夜な徘徊しているとか。
実際にそれらを確認したわけではないが、俺たちの間ではそれらが下水処理場で本当のことになっているように思えてならなかった。
だから俺たちは噂が収まるまで決して下水処理場には近づかなかった。
俺たちだけが下水処理場では嘘が真実になると知っているために。
俺たちが中学生のとき、その下水処理場は取り壊されることになる。
原因は火事だった。
誰かが下水処理場に侵入し、タバコを消し忘れたのだ。
ボヤ騒ぎから数日後、解体業者がやってきて3ヶ月もたたないうちにそこは更地になった。
高校生になったときには巨大なホームセンターになっていた。
昔の面影はもうどこにもなく、店の中で客が冗談半分に話したことが、本当のことになるはずもない。
そういえばある日久しぶりに会った友人からこんな話を聞いた。
あの下水処理場の火事の犯人は未だに捕まっておらず、そして今日が時効だというのだ。
このときになってようやく、俺は下水処理場との因縁を断ち切れた。
放火の犯人の時効なんてどうでもいい話だが、あの下水処理場との関係を断ち切ってくれた点については感謝したほうがいいのかな?と、そう思った。
今その犯人はどうしているのだろう?
俺はホームセンターの駐車場にあるマンホールの前に立っていた。
そこは昔、例の地下室への入り口があった場所
「お前は知っているのか?」
ゴボン